この記事は、よい子の蟲だより№217(2009年4月5日)に掲載されたものを、一部加筆修正してアップしたものです。
若狭地方のギフは、いわゆる北陸低地のギフとは素性の異なる関西系のギフらしい。両者の分布の境界は福井県敦賀市付近にあり、敦賀市の市街地のすぐ東に位置する天筒山のギフは北陸低地のギフ、敦賀市西方の美浜町との境の関峠のギフは、黒っぽくて発生の遅い関西系のギフという。その間、直線距離で僅か8kmである。
実際に若狭地方のギフの記録を調べてみると、海岸線に近い低地の産地でも4月に入ってからの発生のようで、発生の早い北陸低地のギフとは発生時期ひとつを比べても、かなり趣を異にしている。
しかしながら、「福井県ラベル」というのが災いしてか(幸いしてか?)、若狭地方のギフの人気は高くない。そう言う私も、この地方へギフを採りに行くのは実はこれが初めてであった。
関峠の手前、敦賀市側に車を停めて峠の北側を探す。山裾にカンアオイが散見され、絶対いけると確信して美浜町との境界の尾根を少し登ってみた。高圧鉄塔の管理用の小径があり、いかにもギフが上がってきそうな雰囲気に思えたが、姿なし。しばらく粘ってはみたものの、いつものことながらこらえ性のない私は、10時を過ぎても現れないギフに辛抱できなくなり、早々に転戦した。
地形図を広げると、関峠のすぐ北に位置する旗護山山頂からさらに北に向かっていかにも良さそうな尾根が続いている。「旗護山」の記録は私自身は見たことがないが、地形図で見る限り関峠よりも有望な感じがする。しかも尾根まで車で入れそうである。
行ってみると、登り口付近に「関係者以外立ち入り禁止」の看板があったような気もしたが、気のせいだったことにしてそのまま車を進める。少し登ると、何のことはない、付近は公園として整備中であり、立派な道が出来ていて所々に休憩所や展望台もある。ただ、このときは完成間近で工事が中断、若しくは休止しているように見受けられた。
尾根のすぐ下まで車を進め、南北に連なる尾根本体から東(敦賀市側)へ派生した小さな尾根に足を踏み入れると、すぐに足元にカンアオイが見られ期待が高まる。30mくらい行ったところで、待望の今シーズンの初ギフをゲット。遅れて後から来た雅恵は、なぜかすでに2♂を採っている。そこそこ良さそうな場所なので、ここは雅恵に任せて、私は旗護山の北へ伸びる尾根本体を探すことにする。
しかし、丁度このころから雲が広がり始めた。せっかく飛び始めたのにいきなり曇ってしまった感じで、それ以降気温が上がらず、期待していた旗護山の尾根は雰囲気的には良さそうに見えたが、昼前まで粘って1♂追加のみ。雅恵のほうも同じく1♂追加のみで、せっかくポイントを見つけたのに不完全燃焼のまま終わってしまった。
◇ ◇
翌8日。朝のうち、若狭町の尾根で粘っていた私は現われないギフに業を煮やし、例によって10時前には辛抱たまらず旗護山への転戦を決めた。
11時、旗護山着。予想外に移動に時間を費やしてしまったが、着いてみると意外にも気温は1時間前の若狭町よりさらに低めの14℃。着いた時点で転戦したことを半ば後悔していた。
前日、私が1♂、雅恵が3♂採った尾根で、運良く私が1♂を仕留めたものの、はっきり言って寒い。後が続かないので、あきらめ気分でその場に雅恵を残し、昨日同様一人で旗護山の尾根へ向かう。尾根には良く整備された気持ちの良い小径が付いていて、これを行く。低調だった昨日よりさらに気温は低いが、昨日と違って薄日が差しているうえに風がなく、何とかなりそうな気がしてきた。
しばらくしてポツリ、ポツリと飛んで4頭目を採ったところで、雅恵からメールが入る。「ボチボチ上がってきたよ」やっぱりそうか。返信しようとしたところへ2頭が縦に並んでこっちへ向かって飛んでくるのが見えたので、ケータイを放ってネットを振る。これはいい。自力で見つけたポイントで、誰にも邪魔されずホイホイ採れるという経験はまだ多くはないが、これぞ正に至福のとき。これだからギフは止められない。
話は前後するが、7日の午後から若狭町の食見(しきみ)から世久津の尾根筋を下見し、8日は朝から海の見える気持ちの良い尾根で粘った。足元にはアンアオイがあり、ギフの臭いはプンプンするのだが、結局姿はなし。前述のように10時前には転戦してしまい、その時点で気温はまだ低く、いるのかいないのか、時期的、時間的にやや微妙なところであった。
[記録]4月7日(土) 同行者 雅恵
福井県敦賀市関峠 ギフ null
福井県敦賀市旗護山 ギフ 5♂(内3♂雅恵)
4月8日(日) 同行者 雅恵
福井県若狭町食見-世久津 ギフ null
福井県敦賀市旗護山 ギフ 20♂(内3♂雅恵。1♂リリース)
以前、蟲だよりに私自身、東白川村久須見のギフのマップを書いた。予想以上の反響があり、東白川村のギフの価値というものを改めて感じた。この日は久須見とは別の場所でも採れていると知って出かけた。
昼過ぎまでは天気がはっきりせず、最初に良さそうな場所を見つけて車を停めた11時半の時点で、小雨で気温12-13℃。カンアオイがないか見ておこうと車を降りた。ネットを持っていくかどうか一瞬迷ったが、「こんな雨の中、俺もバカだな」と心の中でつぶやきながら、念のため持っていった。車からほんの5mのところで、小雨の中、クマザサの葉上で羽を開いて静止しているギフを発見!「俺もバカだけど、お前はもっとバカだな。そんなところにいると濡れるよ」と半ば呆れながら、そっと保護した。
この天気でいるのなら、天気が回復すればウハウハかと思ったが、午後2時ごろから天気は回復したものの、ウハウハにはほど遠いボチボチ程度だった。
なお、前述の久須見のポイントは、この田舎の山中でいったい何事かと目を疑うほどの巨大道路建設工事のため、この日は近寄ることができなかった。
[記録]4月14日(土) 同行者 雅恵
岐阜県加茂郡東白川村神土 ギフ 6♂(内1♂雅恵)
各地のギフを採集していくと、滋賀県は案外、盲点というか死角になりやすい。気付けば私自身、かなり以前に日野町竜王山での採集経験があるだけだ。名神高速の関が原から米原付近を走行中、周囲の景色にギフの気配を感じつつ、いつも通り過ぎるだけだった。
いざ、滋賀県内の記録を調べてみると、意外と各地に記録があることが分かる。しかし、どこもちっぽけなポイントなのか、2‐3年採れてその後記録がなくなるような、一過性のブーム的な産地が多いような気がしてならない。
そんな一過性の産地の1つかもしれないが、最近、景気のいい記録が出ている旬の産地、清滝山へまずは行くことにする。旬の産地といっても、場所は伝説の名著「88か所めぐり」の「柏原」そのものである。
徳源院の横を抜けて急な山道を登ると、山頂を過ぎた辺りの尾根道にカンアオイがあり、思ったよりも雰囲気はかなり良い。朝のうちは曇りで気温が低くやきもきさせられたが、10時半ごろから天候が回復し、11時には飛ばないのが不思議なくらいのコンディションになっていた。
が、しかし、飛ばなかった。他に採集者が2人いたが、11時の時点で私を含めて全員null。その内の1人によれば、先週8日(日)には7‐8人いたが、多分全員nullだったという。8日も天気は悪くなかったとのこと。この日のカンアオイの新葉の開き具合からはすでに盛期過ぎと思われ、すると8日に採れていないのは不思議な気がする。ここ2‐3年、狭いポイントにかなりの採集者が入り込んで、一過性のブームはすでに「春風と共に去りぬ」ということらしい。つまりは「2-3年前の旬の産地」であった…。
このあと同じ旧山東町の大野木と旧伊吹町弥高を探したが、大野木は場所が分からず、弥高は良さそうな場所を見つけたがnullに終わった。この日探した3か所ともに、いずれも時期的に少し遅いように感じられた。冒頭、滋賀県は「意外と各地に記録がある」と書いたが、思わず首をひねるのは、いやに遅めの記録が目立つことである。正確に言うと、記録に時期的なバラつきがあって、いつが適期なのか特定に迷った。迷った挙句にこの日でもまだ十分間に合うと踏んで出かけたが、微妙に出遅れだったように思う。
記録に時期的なバラつきがある原因は不明だが、1つ思い当たるのは、件(くだん)の「88か所」において、「柏原」の適期が「4月18日」とされていることの影響である。20年以上昔の本とはいえこの本の影響はかなり大きいので、いまだにその影響の残像のようなものが残っていても不思議ではない。何を隠そうかく言うこの私自身が、迷った挙句に最後はこの本を参考にしてこの日に出かけたのであった。実際にいつ蝶が発生するかではなく、いつ採集者が出かけるかによって記録は集積される。現地の様子を見て感じたが、最近の温暖化の影響を差し引いてもなお4月18日は遅すぎると思う。
以上、好天の4月15日にnullを食らった者の、負け犬の遠吠えでした。
[記録]4月15日(日) 同行者 なし
滋賀県米原市(旧山東町)清滝山 ギフ null
滋賀県米原市(旧山東町)大野木 ギフ null
滋賀県米原市(旧伊吹町)弥高 ギフ null
私にとってキャメロン・ハイランドは鬼門らしい。まだ「駆け出し」のころ、初めてのマレーシア行で、あの19マイルポイントも分からぬままとりあえずキャメロン・ハイランドまで行ってしまい、そこら辺のいい加減な場所でネットを振って帰ってきた。それは自虐的に言えば、名古屋ドームまで野球観戦に行って、通路のモニターで観戦して帰ってきたようなものであった。
2度目の挑戦で、得意満面19マイルポイントへやって来たまでは良いが、入口から少し入った所にあったオラン・アスリの集落で犬にけたたましく吠えたてられ、結局奥まで行けずに入口付近でお茶を濁して帰った。
その後、マレーシアを中心に東南アジアのジャングルで採集経験を積み、それなりにスキルアップしたと自分でもそう思う。今回、東南アジア採集行30回記念の行き先として、良い思い出などかけらもないキャメロン・ハイランドを敢えて選んだのは、自らの成長ぶりを自らに示したかったからなのかもしれない。
当地は年中高温多雨の熱帯雨林気候とはいえ、年末年始のころは特に雨が多くしかも気温はやや低めで、蝶の時期としてはむしろ5月のGWのほうが良いという。アカエリトリバネは年中観られるが特に多いのはやはりこの時期のようで、マレー半島の最高峰グヌン・ブリンチャンで各種デリアスやネッタイミドリが採れるのもこのころらしい。過去2回は年末年始に訪れており、今度こそは3度目の正直を狙ってGWに訪れた。
16年ぶりのキャメロンは驚くべき変貌を遂げていた。この間のマレーシアの経済発展は目ざましく、かつて落ち着いたたたずまいのちっぽけな高原の町だったタナ・ラタは、一大高原リゾートの中心として、都会からやって来た大勢の避暑客で賑わっていた。
着いたその日は、熱帯らしくもなく、高原全体がしっぽりと霧雨に濡れそぼっていた。翌日以降かろうじて雨こそあがったものの雲の多い天気で、グヌン・ブリンチャンは連日ぶ厚い雲に覆われていた。そのため3日間19マイルなどの標高の低いポイントへ通ったが、日照不足による低温続きのためか著しく蝶影が薄かった。最終日になってようやく雲がとれたので、満を持してグヌン・ブリンチャンへ行き少しは満足したが、満足したのは行けたから満足しただけで、満足する成果には程遠かった。デリアスはそこそこいたが鮮度が悪く、ネッタイミドリなんぞ気配もなし。
あげくの果てが、分封中の蜂の一群に襲われて10か所近く刺された。その瞬間は数年前のランカウイ島での三浦正恒氏の事故が脳裏をよぎり、大袈裟でなく生きた心地がしなかった。泣きっ面に蜂とはこのこと。2度あることは3度あるとはよく言ったもの。果たして、4度目の正直なんてあるのだろうか。
[記録]4月30日-5月3日 同行者 雅恵
キャメロン・ハイランド(マレーシア・パハン州)
ベラドンナカザリシロチョウ 8♂(内1♂雅恵) ニヌスカザリシロチョウ 1♂(雅恵採集) サザナミワモン 2ex. ヤマネコセセリ 1ex. キバネセセリsp. 23ex.(内4ex.雅恵) 等々、4日間で188頭採集。
5月4日 同行者 雅恵
ゲンティン・シンパ(マレーシア・スランゴ-ル州)
クロシジミ 1ex. 始め17頭採集。
毎度のことながら、5月のGWに東南アジアへ行くと、帰ってきてから国内採集に復帰するのに予想外に時間がかかる。気持ちが切り替わらないのだ。かくして5月のギフは行かず仕舞いとなる。
そんな訳で、この日は“リハビリ”を兼ねて近場でネットを振ってみた。河川敷は昼ごろから強風が吹き抜け、とてもじゃないが長竿を振れるコンディションでなくなったため、早々に帰途についた。クロコムラの比率は意外に低いように感じた。
[記録]5月27日(日) 同行者 なし
愛知県岡崎市渡町 コムラサキ 5♂1♀(クロnull)
愛知県岡崎市下佐々木町 コムラサキ 1♂(クロnull)
愛知県岡崎市村高町 コムラサキ 数頭目撃
5月のギフは行かずじまいとなったが、まだ6月のギフがある、とばかりに有峰まで遠征した。正直、時期を逸している気がしていたが、有峰ハウスに宿泊予約を入れてあったので、半分は仕方なく行った。
着いたその瞬間後悔していた。そこは普段見慣れたギフの飛ぶ舞台とはまるで違う、はっきり言って有峰はすでに春と言うより夏だった。例年かたくなに6月1日にしか開通しない有峰林道が、よりによってこの年はとっくの昔に開通していた。
にもかかわらず、ボロとはいえ多少はマシなギフが採れたことには結構驚いたし、それ以上に採集者が幾人か来ていたことにはもっと驚いた(自分も行っといて言うのもなんだけど)。
翌日は天気がパッとしなかったこともあって全くやる気を失くし、途中から山菜採りに切り替えた。タラノメのほか、山菜の王様コシアブラが結構採れた。
[記録]6月2日(土) 同行者 雅恵
富山県富山市(旧大山町)峠谷 ギフ 1♀
富山県富山市(旧大山町)大多和峠 ギフ 1♀
富山県富山市(旧大山町)折立平 ギフ 1♂
6月3日(日) 同行者 雅恵
富山県富山市(旧大山町)折立(真川上流) ギフ null
F.コンチュウスキー氏が蟲だよりに紹介して下さって以来、2005年から3年連続3回目となるが、今回は極端に少なかった。これまでは数はそこそこ見てもじれったいほど採集できないのだが、今回は1♀採集、この1頭だけで他は全く見なかった。ミズイロオナガが散見される程度で、全体的に蝶が少ない印象だった。
そのことと関係があるかどうかは不明だが、クヌギは蛾による食害が著しく、毛虫がベタベタにくっ付いていた。
[記録]6月10日(日) 同行者 なし
愛知県豊田市(旧藤岡町)昭和の森 クロミドリ 1♀
先週、あれほどまでにクロミドリが少なかったのは、発生初期だったせいではないか?(←採れない時の三流蝶屋定番の言い訳)と、この日、再びのこのこ出かけた。先週よりは多少は多かったものの、昨年、一昨年と比べると激減したという印象。成果は2♀で、クロミは特に♀の発生期が長いことを考えると、先週の時点で発生初期というより、むしろ遅かったという可能性はある。
午後3時ごろだった。クヌギの幹にコムラサキが静止したのに雅恵が気付き、教えてくれた。近づくと地上3mほどの高さから樹液がしみ出しており、これに飛来したものと分かった。コムラサキはかなりのボロのため立ち去ろうとしたその時、付近をせわしなくゼフが飛んだ。色調からすぐにクロミと判明したが、このクロミが何と、樹液の出ている樹幹に止まったのだ。正確には樹液の出ている部位から僅か数㎝ほど上方で、距離があるため口吻を伸ばしているか否か確認できなかったが、心象としては明らかに樹液に飛来したものだった。残念ながら、上からネットをかぶせたがうまく飛び立ってくれず、結局逃げられた。
未練がましく15分ほど後に再び来てみると、今度は樹液の出ている丁度真ん中にミズイロオナガが止まっていた。やはり口吻を伸ばしているか否かはどうしても見えないのだが、これでこれらのゼフが樹液に飛来したことはほぼ確定的となった。
大発見をしたと思って喜び勇んで帰宅後、図鑑を調べてみると、これらのゼフが樹液に来ることは周知の事実であり単なる私の認識不足であった。またしても自らの三流ぶりを証明してしまった。
[記録]6月17日(日) 同行者 雅恵
愛知県豊田市(旧藤岡町)昭和の森 クロミドリ 2♀
白川町六呂山は、故西田眞也氏の「岐阜県の蝶」に紹介されているが、2万5千図をいくら探しても六呂山の地名は載っていない。付近は「パール白川」の名前で別荘地として開発されているが、そもそも名古屋から車でたった2時間ほどの風光明媚でもないこんな時化(しけ)た場所が別荘地として好適なはずもなく、結局というかやはりというか、朽ち果てたお化け屋敷のような別荘が2-3軒建っているだけという現状だった。ところがどうしたことか、よく見ると、何を騙されたのかそこらじゅうの区画に「Y岡山荘」「C澤山荘」「M本山荘」といった古びた立て札だけがいくつも立っている(固有名詞は単なるイメージであり、実在のものとは関係ありません)。この人たちはきっと、土地は買ったが別荘など建てる気にもなれず、さりとて転売もままならず、泣き寝入りしているのだろう。一種の原野商法のようにも思えた。
とはいえ、この周辺はどこまで行ってもスギやヒノキの植林ばかりなのに、この一角だけ別荘地開発のおかげで自然林が残されていて、ゼフの好ポイントになっているというから皮肉なものだ。一部には立派なミズナラ林が残されているが、樹高が高くて始末に負えないので、むしろ山頂直下の二次林のほうが樹高が低くて採集しやすい。
この日はゼフには時期的に遅めと思いきや、意外にもまずまず鮮度の良い個体が採集できた。メスアカの♀には、前翅の他に後翅の中室端と尾突基部にも橙色斑を現すものがある。3か所とも現れる個体も稀ではないが、たいてい後翅の橙色斑は痕跡程度なのが普通のように思う。この日、雅恵が採集した個体は、写真のとおり3か所ともはっきり橙色斑が出現した個体で、雅恵に「これ何?」と聞かれて、思わず「何だ、これは!」と叫んでしまった。A型斑がトリプルで現れているので、「AAA(トリプルエー)」と勝手に命名した。
[記録]7月1日(日) 同行者 雅恵
岐阜県加茂郡白川町六呂山(パール白川)
メスアカミドリ 7♂2♀(内1♂1♀雅恵) ジョウザンミドリ 2♂ ウラキンシジミ 3♀(内1♀赤紋型) ウスイロオナガシジミ 2ex.
7月1日に採ったメスアカ7♂2♀の内、2♀は完品で、5♂もまずまずの鮮度だった。ということは丁度♀の適期で、もしかしてもしかすると、今ならまた“AAA”が採れるかもしれない。
そう思うとスケベ心を抑えられなくなって、思わず休暇を取って六呂山まで来てしまった。しかし、この日はメスアカは数を増していたが、なぜか♂ばかりで、“AAA”はおろか普通の♀さえ全く見ず。しかもたった2日でかなり傷みが進んだ印象で、採っても採っても全てスレ・カケ-ボロ-ボロボロであった。2日前に見られたウスイロオナガやウラキンも全く見ず。逆に、2日前には見なかったミズイロオナガやボロボロのアカシジミなんて、鬱陶しいから出てくるなって、このバカ。嫌がらせでしょうか。もしかして、真面目に仕事しろってこと?
[記録]7月3日(火) 同行者 雅恵
岐阜県白川町六呂山(パール白川)
メスアカミドリ 13♂(内1♂雅恵) オオミドリ 3♂(内1♂雅恵)
ゼフを狙うには少し時期的に遅いように思いながら、標高のある濁河温泉付近ならまだ大丈夫だろうと、岐阜県側から入った。
飛騨小坂で国道41号に別れを告げ、濁河方面へ車を進める。途中、鈴蘭高原までは立派な道路が続くが、これはかつて冬季国体開催に合わせて道路を整備したためらしい。鈴蘭峠から先は急に怪しげな道になり、これが延々濁河温泉まで続く。
鈴蘭峠を過ぎて、最初に何気なく車を停めた標高1390mの名もない峠。何もない山の中に、なぜかだだっ広い駐車場のような広場があり、ここに車を停めて身支度をしているときだった。広場の中ほど、アスファルトの上を這うように、大型のタテハが悠然と飛んでいく。オオムラサキ? 違う! 今のはもしかしてもしかすると、オオイチだったのではないか?! まさか。そう、まさかである。半信半疑でその蝶が飛んでいった広場の向こう側へ走っていくと、クマザサの上を滑るように、ただならぬオーラを放ちながらこちらへ向かって飛んでくる大きな蝶がいた。
オ オ イ チ だ ッー!!
見まごうことなきオオイチだった。しかし、無情にもその蝶は、私から3mほど手前でくるりと向きを変え、あっ気なくブッシュの向こうに姿を消した。興奮冷めやらぬ私は、しばらく広場の端のオオイチが消え去った辺りを、動物園のクマよろしく行ったり来たりウロウロしたが、二度と再びその雄姿を観ることはなかった。
この広場から、1本の林道が下っていた。未舗装の地道で入口にはゲートが下りている。オオイチの雰囲気ではないように思えたが、ゼフには良いかもしれないので少し行ってみる。100mほど歩いただろうか、前方の道ばたに、なにやら真っ黒な、あまりに不自然なほど真っ黒な、丸い大きな塊がデンと鎮座している…?
ク マ だ ッー!!
隣を歩いていた雅恵を制止して、そろそろと後ずさりし、その後はあんまり覚えていないけれど、夢中で走って逃げた。
予想だにしなかった超大物の相次ぐ登場に、日々大過なく過ごしたいと願う小市民の私は、そそくさとしっぽを巻いて退散するのであった。
予定していた濁河温泉までやっては来たが、標高が高すぎるのかミズナラがほとんど見られない。仕方なく濁河を通り過ぎて、ミズナラが現れるところまで標高を下げることにする。途中、柳蘭峠でヒメシジミの異常型やゴイシシジミを拾ったりしながら下っていくが、ミズナラは相変わらずほとんど見られない。
日和田高原まで下った辺りで、道の脇に、「どうだ、ミズナラの純林だぞ。まいったか!」という風情で、いきなりミズナラ林がド・ドーンと現れた。足を踏み入れると、午後2時半にしてすでにエゾミドリのテリが始まっていた。そして、なぜかこの時間でまだアイノが時々混じる。しかし、予想通りこの標高(1450-1500m)では時期的に微妙に遅めで、採っても採っても「ややスレ」ばかりで完品が入らない。しかし、ミズナラを叩きながら進んでいくと、時々ウスイロオナガが飛び出すのと、アイノの♀が少ないながら採れた。
私の乏しい経験からは、アイノの♀はかなり成虫採集の難しいものと思っていた。何を隠そう恥ずかしながら、これまでアイノ♀は2頭しか採ったことがなく、1♀は♂のテリタイム中にひょっこり顔を出したものであり、もう1頭はゴマシジミを採っているときに下草に止まっていたもので、叩き出しで樹上にいるのを採ったのはこれが初めてだった。アイノの♀が狙って採れる。明日もここでやることにした。
◇ ◇
翌29日(日)は遅い梅雨明けを思わせる好天となったが、時期的に遅いせいかゼフのテリ活動は期待したほどではなかった。どうせ♂はスレが多いのでなるべく採らないようにして、アイノ♀とウスイロオナガに照準を絞り、ひたすらミズナラを叩いて歩いた結果、2日間でアイノ6♀、ウスイロオナガ15ex.を得た。アイノ6♀はすべてA型のド完品。おそらくこの手の♀の採集にはタイミングが重要で、翌年同じような時期に行っても採れないような気がする。なお、アイノ1♀には後翅にも痕跡程度だが赤紋が出ていた。
[記録]7月28日(土) 同行者 雅恵
岐阜県下呂市(旧小坂町)鈴蘭峠南方の無名峠 オオイチモンジ 1ex.目撃
岐阜県下呂市(旧小坂町)濁河川上流追分 アイノミドリ 1♂(雅恵採集)
岐阜県高山市(旧高根村)柳蘭峠
ヒメシジミ 5♂12♀(内1♂2♀雅恵、1♀異常型) ゴイシシジミ 11ex.(内4ex.雅恵)
岐阜県高山市(旧高根村)日和田高原
アイノミドリ 3♂2♀(内1♂雅恵。♀はA型) エゾミドリ 5♂ ウスイロオナガシジミ 2ex.
7月29日(日) 同行者 雅恵
岐阜県高山市(旧高根村)日和田高原
アイノミドリ 10♂4♀(内3♂雅恵。♀はA型) メスアカミドリ 2♂(内1♂雅恵)
ジョウザンミドリ 10♂(内1♂雅恵) エゾミドリ 2♂ ウラゴマダラシジミ 3♀(内1♀雅恵) ウスイロオナガシジミ 13ex.
3泊4日の豪華版でベニヒカゲ・ツアーを企画したはよいが、正直ベニヒカゲはどうも時期がよく分からない。ギフチョウと違って個々の産地ごとの発生期間には幅があるはずなのに、ギフチョウ以上に発生期に関してミクロな意味での地域分化が激しい。加えて年による発生期の振れ幅が大きく、さらには夏山の気象や季節変動は都会の生活からは想像を超えて推察が難しい。極端な話、冷夏の年には標高の高いところでは夏が来ないうちに秋になってしまったりする。そこで、これらを総合的に考察すると、要するに「行ってみなければ分からない」という永遠の真理に到達する。
当地では自分自身2004年8月16日、7♂28♀を得ているが、この時は時期的に遅くてボロが多かった。詳細は蟲だより№207にマップ付で報告した。今回は、まずは様子の分かっている当地で時期を確認しておこうという狙いだった。
ポイント着が昼近くで、すでに夫婦連れの採集者が入っており多くを望むべくもないが、先客がいたことを差し引いても個体数は少ないと感じた。アザミ類は咲き始めでヤナギランも3分から5分咲き。ベニヒカゲはすべて♂で、予想以上に発生が遅れており、5日後ぐらいが最盛期という気がした。
発生が遅れているとはいえ、♂はすでに発生していることが確認できた。筍山はかぐらみつまたスキー場と直線距離で約10㎞。このところ景気のよい記録が多数あり、期待大である。例によってポイントは知らないが、苗場スキー場の上が筍山なので、スキー場の上部でベニが発生しているものと勝手に決めた。
行ってみると、苗場スキー場は一帯のスキー場群の中でも最大の規模で麓には巨大な苗場プリンスホテルが鎮座しており、これが邪魔でスキー場になかなか取り付けず、登り口を見つけるのに苦労した。遊覧ヘリ乗り場を横目に橋を渡り、テニスコートの横からゴルフ場の中へと道は続く。気付くと道は極細で、向こうからカートが来たらどうしようと冷や冷やしながら一気に突っ切って、道ばたの空き地に車を停める。ここまで歩いて登っても20-30分かもしれないが、何しろここからまだどれだけ登らなければならないか分からないので、少しでも標高を稼いでおきたいところだ。
ここからは切りっぱなしのひどい地道で、ランクルなら登れるかもしれないが無理せずに歩く。2つ目のリフト乗り場で道は行き止まり。ここから3つ目のリフト乗り場までが難所で、急斜面のゲレンデをジグザグに登る。急斜面なのに草丈が深く、身長179.8㎝の私でさえ所により身の丈を越す草の海に悪戦苦闘したが、まして身長14? ㎝の雅恵は、草の海に呑み込まれて沈没寸前?だった。
やっとの思いで3つ目のリフト乗り場に辿り着くと、左手からしっかりした地道が登ってきており、これを歩いて来ればきっと楽だったろうと思う。ここから先は道はしっかりしていて、ほどなくベニヒカゲが出迎えてくれ、後は楽しいばかりだった。ベニはここから上の方まで濃淡はあるものの連続的に、かなり広範囲で発生している。密度は決して高くはなかったが、この日もすべて♂で発生初期と思われることからピーク時には相当の発生数と予想できる。
なお、大型個体を産することでも知られる古典的有名産地の三国峠は、ここから谷を挟んで直線距離で6㎞ほどだが、ここ筍山の個体もかなりの大型個体がいる。三国峠は残念ながら最近はあまり観られなくなったらしい。
3日目は、予定を大きく変更して浅間山系の車坂峠までやって来た。当地では以前、峠を群馬県側に少し下った場所で観察したことがあるが、今回はこのときよりも個体数が多く、峠付近の道ばたでも何気に飛んでいた。さすがに峠付近は観光客だらけなので少し峠から下ったが、いい加減な道ばたでポツポツ観察できた。
あさま2000スキー場は、車坂峠から高峰温泉へ向かう道沿いのこじんまりしたスキー場で、駐車場に車を停めて歩いてすぐの所が環境が良くベニヒカゲも最も多いが、観光客も最も多い。ところが、こんな場所で平気でネットを振っているトテチテタ野郎がいてびっくりした。
当地も2006年8月20日に11♂6♀を得ているが、会員のC氏からもっと奥に良いポイントがあると聞いて出直した。なるほど登山道から沢沿いを奥に詰めると、良い環境が広がっていて個体数も多かった。
[記録]8月11日(土) 同行者 雅恵
新潟県湯沢町かぐらみつまたスキー場 ベニヒカゲ 30♂(内10♂雅恵)
8月12日(日) 同行者 雅恵
新潟県湯沢町苗場スキー場(筍山) ベニヒカゲ 71♂(内18♂雅恵)
8月13日(月) 同行者 雅恵
群馬県嬬恋村車坂峠 ベニヒカゲ 観察
群馬県嬬恋村あさま2000スキー場 ベニヒカゲ 観察
8月14日(火) 同行者 雅恵
山梨県北杜市(旧大泉村)大門沢 ベニヒカゲ 43♂5♀(内13♂1♀雅恵。白帯2♀、黄帯3♀)