2016年採集日記(上)


■ 3月20日(日) 大野町ほかのギフ

 かつての有名採集地、大野町野で、昨年やっと見つけたカンアオイ自生地へやって来た。ところがどうしたことか、確かにそこにあったはずのカンアオイが見つからない。そんなバカなと血眼(ちまなこ)になって探し回り、やっと見つけた。昨年と比べて雑草がはびこって目立たなくなったというか、明らかにかなり衰退していた。この調子だと、もしかすると来春にはもうないかもしれない。

他の雑草に押されて青息吐息のカンアイオイ。
他の雑草に押されて青息吐息のカンアイオイ。
この株が一番大きかった。
この株が一番大きかった。

 野を私が初めて訪れた2012年の春には、採集者がまだ何人も来ていたが、ギフチョウはおろかカンアオイさえ見つけることができなかった。しかし、そのとき私が感じた印象を当時の採集日記で次のように書き綴っている。

「環境はかなり良さそうに見える。(中略)そして何より驚いたのは、一見、環境は良さそうに見えたのに、歩いた範囲ではカンアオイは全く見つからなかった」

そう、4年前には環境はかなり良さそうに見え、なのにカンアオイが見つからないのが不思議でならなかった。それがたったの4年で、今やそれほど良さそうな環境に見えない。やっと見つけたカンアオイは風前の灯で、自生地からほんの20-30m離れただけで笹がはびこっていたり小石がゴロゴロしていたりする。

 人の目には、初めはどうしてギフチョウがいなくなったのか、どうしてカンアオイがなくなったのか分からなかった。そして、誰もが異口同音に「環境は残っているのに・・」とつぶやいた。そして、きっと10年、20年後にこの地を訪れたとき、「こんな場所にかつてギフチョウがいたなんて・・」と、つぶやくに違いない。

 物事がゆっくり静かに進行しているときに、進行中の事象を正しく捉えることは意外に難しい。そして、今まさにこの場所で、温暖化すなわち乾燥化という悪魔の事象が、ゆっくり静かに進行している。

[記録]2016年3月20日(日) 同行者 雅恵

岐阜県揖斐郡大野町野 カンアオイ確認

岐阜県揖斐郡揖斐川町(旧揖斐川町、旧久瀬村)各所 カンアオイ発見できず。

 


■ 4月2日(土) 郡上市大和町のギフ

 当初、この日は西濃の低地へ行く予定をしていた。積算気温のデータをこねくり回してはじき出した今シーズンの発生予想が、あまりに早すぎて自分でも半信半疑だったため、確実に発生していてフライングの心配のない西濃へ行こうと考えたのだ。しかし、私の「ギフチョウ採集10か条」の第1条は「発生期の前半を狙うべし!」なので、最盛期過ぎかもしれない西濃へ行ったのでは自らの戒めに背くことになる。というか、本音を言うと先々週の下見でへこんでしまって西濃へ足が向かないのだ。気を取り直していつものように楽しく採集に出かけるには、行き先を変更したほうがよいかもしれない。

 という訳で、迷った挙句、4月も初旬というのにいきなり奥美濃へ向けて東海北陸自動車道を北へ北へと車を走らせていた。関から美濃周辺の桜は満開で、美並に入った辺りでは7分咲きの桜に満開のコブシが加わり、いやがうえにも気分が高まる。期待に胸を弾ませながら車を走らせていくと、おや? トンネルを抜けて郡上八幡に入った途端、いきなり沿道の景色が変わった。長良川堤の桜はどう見てもチラホラ咲き。場所にもよるが、ひいきめに見ても3分咲いていない(ちゃんと前見て運転してるか?)。

付近のソメイヨシノはチラッとも咲いていなかった。
付近のソメイヨシノはチラッとも咲いていなかった。

 ぎふ大和ICを降りて愕然とした。桜が全く開花していない。チラッとも咲いていないのだ。待ちに待ったシーズンの開幕に、わざわざこんな所までフライングを犯しに来てしまった。そう思った。 

 ところがである。現地に着いてすぐ、斜面を弱々しく翔ぶギフを雅恵が発見! あわてて車を停めて追ったが、残念ながら見失ってしまった。

しかし、発生していることが確認できたので、ゆっくり探すことにする。この時点でまだ気温は低く天気もいまいちで、この後すぐに至福のひとときが訪れようとは想像もしていなかった。

 しばらく付近をうろうろして、日当たりの良い土手状のところで最初の1♂を採集。すぐに同じ場所で2頭目を追加。すぐに3頭目、そして4頭目を・・。時刻は9時過ぎから10時頃までの1時間弱。曇り時々晴れの天候で気温の上昇は鈍く、コンデション的には決して良いほうの部類ではなかった。にもかかわらず、予想を大幅に超える大成果となった。

 この日、現地の桜は全く開花していないのにギフは適期だった。ブログにも書いた(「衝撃のシーズン開幕戦」)が、今後、温暖化がいっそう進むと、この日のような不思議な現象が当たり前になってしまうのかもしれない。

[記録]2016年4月2日(土) 同行者 雅恵

岐阜県郡上市大和町大間見 ギフ16♂1♀(内3♂雅恵採集。♀は未交尾)

岐阜県郡上市白鳥町 カンアオイ確認

 


■ 4月9日(土) 中津川市坂下町と白川町のギフ

《中津川市坂下町》

 前年、旧坂下町で私自身30年ぶりにカンアオイの自生地を発見し、今シーズンの再訪を楽しみにしていた。

 とはいえ、旧坂下町ではこれまで幾度となく辛酸をなめている。見つけたカンアオイ自生地は、はっきり言って「しょぼしょぼ」である。そこで、事前に穴があくほど地形図を見て、この場所にカンアオイがあるなら周囲にもっといい場所はないかと探した。地形図を見ていてハッとひらめいた。カンアオイ自生地のすぐ近くに見覚えのある地形がある。30年前に私が旧坂下町で最後にギフ卵を採集した下外(しもそで)とよく似た地形がそこにあった。絶対ここだ! そう確信した。

この付近の尾根道で粘ったが、ギフの姿なし。
この付近の尾根道で粘ったが、ギフの姿なし。

 期待を胸に斜面を登る。予想通り、尾根には別の方向から登ってきた小径があって、しばらく進むと祠(ほこら)があった。ギフが上がってくるならこの付近だろうと予想してトラップを仕掛け、雅恵を待たせて私は周囲へ探しに行く。

 絶好のコンディション。よく晴れているが、春霞がかかっているようで日差しが強すぎないし気温も上がりすぎていない。周辺の桜は満開で、季節も大きくは外していないに違いない。にもかかわらず、待ち人来らず。舞姫がその艷姿を見せることは遂になかった。惨敗。

《白川町下佐見》

 4月上旬としては、あるようで意外に少ない絶好のギフ日和。こんな絶好の日にnullは嫌なので、以前から気になっている白川町下佐見へ転戦する。当地にはまずまずカンアオイがあるにもかかわらず、これまで3度訪れて低温やら何やらで雅恵が1♂を採集しただけで、ずっと宿題として引きずっていた。

とあるサイトで見つけた白川町のポイントの写真。
とあるサイトで見つけた白川町のポイントの写真。

 元はといえば、とあるサイトで見つけた右の写真、白川町から下呂へ抜ける林道の途中で見つけたというこの場所で、右手の斜面にカンアオイがずくずくにあって、ギフも多数見られたらしい。

 私が最初に下呂へ探しに来たときからこの写真の場所が気になっていた。白川町と下呂市を結ぶ林道なんてそう何本もありはしない。すぐに見つかると思ってたかをくくっていた。ところが、いくら探してもなぜか見つからない。結局見つからないまま、私の脳裏に写真の光景だけが焼きついていた。

 

 最初に下呂へ下見に行ったのが2013年3月11日。国道256号線を走行中に良さそうな環境が目に入って車を停めたその場所が、白川町下佐見だった。林内を探すとすぐにカンアオイが見つかり、「これは楽勝だな」と思ったのを覚えている。ところがその場所は、前述のように通算3回通って1♂だけ。この日、坂下から転戦して正午頃着くと、以前より少し林が暗くなったような気がした。カンアオイもやや衰退して環境が悪化している印象だった。それでも仕方がないのでトラップを仕掛けて雅恵を待たせ、独りで周辺へ探しに行く。

 少し歩いた国道沿いの道端で、偶然、新鮮な1♂を採集。やっぱりいたかと思うと同時に、なんでこんな所に? と思うような場所だった。しかし、いることが分かったのでネジを巻いてそこらじゅうを探し回った結果、狭いながらも確実に発生しているポイントを見つけて2♂を追加できた。

上の写真と同一場所と思われるが、道路の拡幅で見る影もない。
上の写真と同一場所と思われるが、道路の拡幅で見る影もない。

 そして右の写真をご覧いただきたい。写真の場所は、この日私がギフを採集した地点のすぐそばである。この場所こそは、私が探し続けていた上の写真の場所そのものと確信した。いや、確信はしていない。信じたくないのだ。でも、道の左側に建っている工作物とその後方の杉の様子から、2枚の写真が同一場所であると考えざるを得ない。だとすると、2013年3月に最初に訪れたときに吸い寄せられるようにこの場所のすぐ近くで車を停めて、カンアオイを見つけていた。そのときすでに、写真の場所は道路の拡幅工事のため見る影もなく破壊されており、全く気付かなかった。

 ちなみに今回、写真右手の斜面を丹念に探したが、カンアオイはほんの僅かに残存しているにすぎず、この場所でギフは見られなかった。

[記録]2016年4月9日(土) 同行者 雅恵

岐阜県中津川市坂下町 ギフ null 

岐阜県加茂郡白川町下佐見 ギフ 3♂

 


■ 4月10日(日) 郡上市白鳥町のギフ

ピーク付近の杉林の林床に、カンアオイがあった。
ピーク付近の杉林の林床に、カンアオイがあった。

 白鳥町は曽部知谷や立多羅谷が有名だが、人の多いところを避けて別の場所を探しに行く。4月2日の大和町の採集の後に下見に立ち寄り、山裾の斜面にカンアオイが自生するのを見つけてあった。

 藪こぎでピーク付近まで登ったところ、周辺はやや平坦な地形になっていて、写真の場所にカンアオイがあった。杉の植林が少し伸びすぎの感はあるが、まだ何とかいけそうな気がする。残念ながらこの日は天気予報に裏切られて全く日差しがなく、ギフが飛ぶコンディションではなかった。

[記録]2016年4月10日(日) 同行者 雅恵

岐阜県郡上市白鳥町 ギフ null(日照なし)