2020年採集日記(中)


 当初、今年のGWは北信のギフへ行き、その後も5月は飛騨方面へ行くつもりだった。この冬は記録的な暖冬で残雪が少ないので、普段の年には入りにくい林道の奥深くまで容易に入れるはずだ。この千載一遇のチャンスを逃す手はないと考えた。

 ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で状況が一変する。不要不急の外出とGW中の県境を越える移動は自粛せよとのこと。―― そんなの関係ない! 人との接触が問題なのだから、誰もいない山の中を一人で歩いている分には全く問題ないし、誰にも迷惑はかからないはずだ。何なら食糧と水を持ち込んで完全自炊で車中泊ならどうだ。日帰り温泉にも道の駅にもコンビニにも立ち寄らず、トイレはもちろん山で済ませ、この時期2-3日なら風呂に入らなくても、垢(あか)で死んだヤツはいないと言うから大丈夫。もちろん雅恵は嫌がるので一人で行く。―― そんなことまで本気で考えたりしていた。

 とはいえ、こんな時にのこのこ県外へ出かけていって、万一山中で事故でも起こせば超ヤバい。脱輪して県外ナンバーがJAFを呼べば、それだけで大迷惑。ひんしゅく者の大バカ野郎だ。もともとプレッシャーに弱い性格の私は、こんな時に限って脱輪しそうな気がする。そう考えると、やっぱり素直に県内でやるしかないだろう。

 という訳で、この時期に愛知県内で狙えるものとしてミヤマカラスアゲハをターゲットに決めた。誰にも会わず、どこにも立ち寄ることなく、山中でひっそり、ひとりきりでミヤマカラスと戯れる。そんなプランを練ることにした。

 


■ 4月29日(水祝) 愛知県のミヤマカラスアゲハ(パート1)

 とはいえ、冷静に考えると愛知県内のどこでミヤマカラスアゲハが採れるのか知らない。自分の標本箱の中を確かめると、次が全てだった。

 1979年5月6日 愛知県東加茂郡足助町香嵐渓 3♂

 古すぎ! 香嵐渓は今ではすっかり様子が変わって観光地化されてしまっている。他に愛知県内の文献記録はないか調べたところ「くらがり渓谷」が見つかったが、ここも観光地だ。この他にはなぜかさっぱり見つからなかった。かつて猿投山で採ったと聞いた記憶があるし、それどころか名古屋市内で採れたと聞いた気もする。

 そんなんだったら行けばなんとかなるだろう、という甘い考えで、この日は旧藤岡町方面を探索することにする。事前に地形図やGoogleマップで目星を付けてあったので効率よく回れたが、効率が良かったのはどこもかしこも手応えがないから。ダメ、パス、はい次。ダメ、パス、はい次・・で、とっても効率が良い。この日だけで細分すると10か所ほども回ったが、ミヤマカラスどころか黒色系アゲハ自体、上川口町の砂ぼこりのひどい林道でクロアゲハらしきものを1頭見かけただけに終わった。

下川口町の林道。
下川口町の林道。
月原町の自然観察の森。
月原町の自然観察の森。

 旧藤岡町内は自然林はわりと良く残っているが、山が全体的に浅く、地形図で谷地形を片っ端からチェックしておいたが徒労に終わった。多少良さそうな場所の写真を貼っておいたが、この2か所も多少マシという程度で、ここでミヤマカラスアゲハを採ったら天才かもしれない。私自身は二度と行かない気がする。

 そこで、午後からは時期的に少し早いと思いつつ香嵐渓の奥の神越渓谷まで足を伸ばした。当地はその名のとおり文句なしの渓谷地形で、しかも自然林が良く残っている。しかし、いかんせん観光地で、外出自粛と言っているのにそこそこ人が来ていた(他人のことをとやかく言えた口じゃないけれど)。この分だと普段はもっと車と人だらけで、とてもじゃないがネットを振れそうな気がしない。

 地形図を見ると、神越渓谷の奥にも渓流に沿って延々と林道が続いていて相当奥が深い。しかしながら、行ってみると予想どおり奥へ行けば行くほど植林が多くなり、大きな期待はできないと感じた。

ミツバツツジで吸蜜中のジャコウアゲハ。
ミツバツツジで吸蜜中のジャコウアゲハ。

 あまりの貧果で寂しいので、帰り道で田茂平に立ち寄った。ここなら黒いアゲハが何かいるだろうと期待したところ、さっそくジャコウアゲハがいくつか出迎えてくれた。

[記録]4月29日(水祝) 同行者 雅恵

愛知県豊田市(旧藤岡町)犬伏川沿い 成果なし

愛知県豊田市(旧藤岡町)御作町 成果なし

愛知県豊田市(旧藤岡町)下川口町 成果なし

愛知県豊田市(旧藤岡町)上川口町  黒色アゲハ 1ex.目撃

愛知県豊田市(旧足助町)月原町 成果なし

愛知県豊田市(旧足助町)神越渓谷-田之士里 成果なし

愛知県豊田市(旧藤岡町)田茂平町 ジャコウアゲハ ♂数頭撮影 

 


■ 5月5日(火祝) 愛知県のミヤマカラスアゲハ(パート2)

 ミヤマカラスアゲハを甘くみていたので、反省して作戦を練り直す。前回は地形図とGoogleマップのストリートビューや航空写真を見ながら漠然と良さそうな場所をチェックしたが、行ってみると全然だった。そこで、ミヤマカラスアゲハの生息環境の評価基準的なものを自分なりに整理してみることにした。漠然と「良さそう」という主観的なイメージではなく、点数化して客観的に評価しようという試みである。生息地環境のイメージとしては、何度か行ったことのある根尾の水鳥谷を参考にした。下に掲げた評価表は、こうして作成したものに、その後幾度か修正を加えたものである。こうして形にしてみると、内容はともかく何だかえらくもっともらしい(自画自賛)。

ミヤマカラスアゲハの生息環境評価表(採点表)

 
チェックポイント 配点    
(1) 渓谷地形  
・深いV字渓谷である。 30点

・V字渓谷ではないが、ある程度の水量の渓流や沢がある。

20点
・中流域の河川や人造湖(元は渓谷)の河畔、湖畔。 10点
(加点)谷の奥が深い(歩いては行けない程度の距離)。 +10点
(2) 植生  
・自然林(自然林が3分の2以上) 30点
・自然林と植林が混ざり合っている(自然林が3分の1から3分の2)。 20点

・沢沿いなどに自然林が残っている(自然林が3分の1以下)。

10点
(3) 林道  
(加点)中腹でなく川に近い低い位置に林道がある。 +10点
(加点)未舗装の地道 +10点
(4) キャッチング・ポイント  
(加点)吸水ポイントや吸蜜植物がある。 +10点

 60点満点で加点が「10点×4項目」で最高100点。ただし、(4)は現地に行ってみないと分からないので、下調べ段階では最高90点となる。ちなみに根尾の水鳥谷は、かつては100点だったが今は林道が舗装されてしまったので90点。ミヤマカラスアゲハのポイントとしては、渓谷地形以外にも尾根やピークでヒルトッピングを狙う方法もあるが、キリがないのでまずは発生環境と思われる渓谷地形に絞った。

 この採点表に照らすと、前回調べた旧藤岡町内は30-40点の場所ばかりだった。旧藤岡町内は自然林はまずまず残っているものの山が浅く、低山地というより丘陵地帯である。渓谷地形はおろか渓流さえなかなか見つからない。

 ここで、地形図を見ていてふと気づいた。旧藤岡町と比べて、同じ名古屋の近郊でも瀬戸市には意外に渓谷地形がある。良く知られたところで岩屋堂や定光寺、古虎渓(※)などがあるが、当然これらは観光地なのでパス。しかし、その他にも蛇ヶ洞川沿いや白岩町など、意外に深い谷や渓流がある。 ※ 正確には古虎渓の本体は瀬戸市でなく多治見市側にある。

上川養鱒場奥の林道。
上川養鱒場奥の林道。

 という訳で、この日は、まずは上半田川の上川養鱒場の奥の林道へ。写真の橋の上で、渓流の梢上を舐めるように飛ぶカラスアゲハを目撃した。結果的に、これがこの日見た唯一のアキリデスとなった。

 名古屋の近郊にこんな良い環境が残っているとは少なからず驚いたが、一方で環境が残っているわりになぜか蝶の姿はこのカラスアゲハ1頭とルリタテハらしきものを見ただけで他には何もおらず。あまりの淋しさに、すぐ転戦してしまった。

上品野町から三国山へ続く林道。
上品野町から三国山へ続く林道。

 次の写真は上品野町から三国山方面へ向かう道。渓谷というほどではないが、道沿いに沢が流れている。この道でオナガアゲハ 2♂を採集した。この日はこの付近で少し粘ったあとはほぼ車で流しただけで、吸蜜植物は見つからなかった。かなり奥が深いので、よく探せばどこかにツツジぐらい咲いていそうな気がする。オナガアゲハが発生していたとはいえ、春と夏の境目というか、全体的にやや時期が早かったような印象を受けた。

[記録]5月5日(火祝) 同行者 雅恵

愛知県瀬戸市上半田川町 カラスアゲハ 1ex.目撃

愛知県瀬戸市下半田川町 成果なし

愛知県瀬戸市余床町 成果なし

愛知県瀬戸市上品野町から白岩町 オナガアゲハ 2♂

愛知県豊田市(旧藤岡町)折平町 成果なし 

 


■ 5月13日(水) 愛知県のミヤマカラスアゲハ(パート3)

《豊田市連谷町》

連谷町の林道入口付近。
連谷町の林道入口付近。

 この日からいよいよ本格的に三河山間部へ足を運ぶ。

 まずは手始めに、旧足助町の渓流沿いを攻める。林道の入口、写真の右手の耕作放棄地で、ウスバシロチョウが出迎えてくれた。バシロが飛ぶと、なんだかそれだけで気分が高揚するのを覚える。ギフチョウの時のミヤマセセリやコツバメと同じか? 環境も良さそうで期待が高まるが、何と、林道入口を入った途端に深いスギの植林となり、しかも少し行った所で行き止まってしまった。残念!

 

《豊田市旧稲武町》

渓流沿いの林道。
渓流沿いの林道。

 気を取り直して次に目指したのは、旧稲武町の渓流沿いの林道。行ってみると期待どおり未舗装の地道で、しかも奥が深い。始めのうち林道は沢から離れた中腹を走っているが、先に進むにつれて次第に低くなって理想的なロケーションになっと。

 

 ウツギの花にアオバセセリが来ていた。アオバセセリは早朝活動性があるが、もう午前10時を過ぎているというのに日当たりが悪いのが幸いしたらしい。3-4頭が吸蜜に来ていた。しばらく撮影して、そろそろ飽きたのでせっかくなので採集しておこうと思い、脅かさないように端っこの方のをそっとすくった。次に2頭目を採ろうとすると、あれっ? いない‥。今さっきまで常に3つも4つもいたのに、1つ採っただけで一斉に姿を消した。気付けばいつの間にか日が当たり始めていた。どうやら朝食タイムが終わって、皆さんお帰りになられたようだ。 

ウツギで吸蜜中のアオバセセリ(2頭)。
ウツギで吸蜜中のアオバセセリ(2頭)。
ウツギで吸蜜中のアオバセセリとイカリモンガ。
ウツギで吸蜜中のアオバセセリとイカリモンガ。

ウツギで吸蜜中のアオバセセリ。
ウツギで吸蜜中のアオバセセリ。
ヤマツツジで吸蜜するオナガアゲハ。
ヤマツツジで吸蜜するオナガアゲハ。

 少し行ったところに、今度はヤマツツジが咲いていた。ここも日当たりが良くないため時々オナガアゲハが来る程度だが、しばらく粘っていると突然ミヤマカラスアゲハが飛来! 後翅裏面の弓状帯がはっきりくっきり見えたが、すぐに飛び去ってしまった。あきらめきれずにしばらく付近をウロウロしていると、30分後に再度飛来! 初めは高いところで吸蜜していてブッシュが邪魔で手も足も出なかったが、突然手前の低い場所に移動してくれたので難なくネット。新鮮な♀だった。これに気を良くしてヤマツツジの前で弁当を広げて昼過ぎまで粘ったが、オナガアゲハとたまにカラスアゲハが来るだけで12時20分ごろには転戦した。

 しかし、転戦先もパッとせず、もしやと思って14時ごろにこの場所に戻ってみたところ、日当たりが良くなっていて蝶の数が劇的に増えていた。午後から天気がより良くなったことも手伝って、15時頃をピークにオナガアゲハを中心として黒色系アゲハがひっきりなしに飛来した。

こんな渓谷にナガサキアゲハ が!
こんな渓谷にナガサキアゲハ が!

 ヤマツツジの前でミヤマカラスアゲハの飛来をひたすら待っていると、突然2頭の黒色アゲハが卍になってもつれ飛ぶ。とっさに振ったネットの中を見て‥一瞬クロアゲハの無尾型かと思ったが、そんなわけあるはずなくて、ただのナガサキアゲハの♂。写真では完品のように見えるが、実は右後翅がバサッと半分ない。 

 ナガサキアゲハは人家周辺の植栽のミカン類に依存して分布を北へ広げていると思っていたので、こんな山の中の渓流沿いにいたことにビックリ。しかし、よく考えればマレーシアのジャングルでは渓流沿いを優雅に飛ぶ黒色アゲハの大半は本種であり、こういう環境が本来の生息場所なのだろう。つまり、人家周辺でも山の中の渓流沿いでも、どんな環境でも適応できるということで、クロアゲハが駆逐されるわけだ。

 この日、ヤマツツジに飛来した黒色アゲハは圧倒的にオナガが多かったが、種類別の延べ目撃数は、ざっとイメージで、 

オナガ:カラス:ミヤマカラス:クロ:ナガサキ=60:6:5:2:1

こんな感じ。

逆立ちして吸蜜するサカハチチョウ。
逆立ちして吸蜜するサカハチチョウ。

 朝のうちアオバセセリが来ていたウツギに、昼からはサカハチチョウ盛んに訪れていた。サカハチの写真を撮っていると、最初は普通に吸蜜していたのが、なぜか身体の向きをジリジリと変えて遂には真っすぐ逆立ちする姿勢になった。

 なぜこんな不自然な格好で吸蜜するのか不明だが、「サカハチチョウ(逆八蝶)」だけに逆立ちして何かをアピールしている?! ってのは考えすぎだね。


本格的な渓流。
本格的な渓流。

 沢に降りてみると、こんなダイナミックな光景が広がっていた。

 先の評価表で採点すると、

・V字渓谷ではないが、ある程度の水量の渓流や沢がある。(20点)

・自然林と植林が混ざり合っている。(20点)

・谷の奥が深い。(+10点)

・中腹でなく川に近い低い位置に林道がある。(+10点) 

・未舗装の地道。(+10点)

・吸水ポイントや吸蜜植物がある。(+10点)

以上合計80点。少し採点甘めかも。

 

[記録]5月13日(水) 同行者 なし

愛知県豊田市(旧足助町)連谷町 ウスバシロチョウ 3♂ アオバセセリ 1♂

愛知県豊田市(旧稲武市)

ミヤマカラスアゲハ 3♀ カラスアゲハ 1♂1♀ ナガサキアゲハ 1♂(破損リリース)

クロアゲハ 少数目撃 オナガアゲハ 多数目撃 アオバセセリ 1♂ サカハチチョウ 1♂

愛知県豊田市(旧足助町)大多賀町 成果なし

愛知県北設楽郡設楽町田峯 成果なし 

 


■ 5月17日(日) 愛知県のミヤマカラスアゲハ(パート4)

《設楽町田峯》

しっぽりと濡れそぼって苔むした渓流沿い。
しっぽりと濡れそぼって苔むした渓流沿い。

 4日前の13日の午後に探しに来た、設楽町田峯がこの日のお目当て。前回、段戸湖から流下する段戸川沿いの県道をざっくり探して環境が良いことを確認していた。その時は少しフライング気味だったので今回出直したが、この日は日曜とあって段戸湖方面に向かう車が大変多い。おいおい、まだ外出自粛中じゃないのかよと、他人のことを言えた口じゃない。みんな自粛疲れで、山なら大丈夫と思って来ているのだろう。

 こんなこともあろうかと地形図で目星が付けてあったので、県道から離れて少し奥へ入る。しかし、そもそもこの付近は源流地帯なので、少し奥へ詰めるとすぐに沢がやせ細ってしまう。ミヤマカラスアゲハの生息地としては少しイメージが違う気がした。

 

《豊田市黒田町》

ヤマツツジは未開花のものが多かった。
ヤマツツジは未開花のものが多かった。

 次に、黒田貯水池から流下する黒田川沿いにやってきた。ヤマツツジの多い場所を見つけたが、意外にもほとんど開花していない。改めて地形図で標高を確かめると、先ほどまでいた設楽町田峯とほぼ同じ標高。特に日当たりの加減も大きく違わないのに、どうしてヤマツツジの開花にこれほど差があるのか見当もつかない。いずれにしても、これでは未発生か、もしくは発生していてもキャッチングポイントにはなり得ない。

《豊田市旧稲武町》

ミヤマカラスアゲハ ♂
ミヤマカラスアゲハ ♂

 あまりに成果に乏しいため、もう遅いと分かっていながら、4日前に3♀採った旧稲武町のポンイントに舞い戻ってしまった。ミヤマカラスアゲは1♂ネット出来ただけだが、当然のように、ご覧のとおりの傷んだ個体でリリース。カラスアゲハも破損が目立った。オナガアゲハは相変わらず多かった。

[記録]5月17日(日) 同行者 雅恵

愛知県北設楽郡設楽町田峯 オナガアゲハ 1ex.目撃 

愛知県豊田市(旧稲武町)黒田町 成果なし

愛知県豊田市(旧稲武町) 

ミヤマカラスアゲハ 1♂(破損リリース)  カラスアゲハ 1ex.目撃 オナガアゲハ 多数目撃

 


■ 5月24日(日) 愛知県のミヤマカラスアゲハ(パート5)

《豊田市稲武町》

ベルベットの貴婦人。ヤマツツジで吸蜜中のオナガアゲハ。
ベルベットの貴婦人。ヤマツツジで吸蜜中のオナガアゲハ。

 この日はまず、面の木峠へ向かう途中の井山川沿いを探索する。

 渓流そのものは面の木峠の原生林に源を発する素晴らしい渓流なのだが、残念ながら渓流沿いの周囲の環境が開発されすぎている。道路は道幅こそ広くないが、立派に舗装されていて周囲はコンクリートで固められている。山の斜面はほとんどが植林で、さらにその植林が一部で伐採されたまま放置されているありさま。

渓流上のヤマツツジ。
渓流上のヤマツツジ。

 それでも、その素晴らしい渓流上に素晴らしいヤマツツジが咲いていて、これにいくつかのオナガアゲハが来ていた。渓流に沿って

蝶道が形成されていて、ちょうどそこにヤマツツジが咲いているので格好の採餌場となっているようだ。カラスアゲハも1頭飛来したが、しばらく粘ったがミヤマカラスアゲハの姿はなかった。標高を考えると、ミヤマカラスには時期的に少し遅かったと思われる。

カワガラスの幼鳥。
カワガラスの幼鳥。

 渓流上で見慣れない中型の野鳥を見かけたので写真に収めて帰宅後調べたところ、カワガラスの幼鳥であるらしい。元々それほど珍しい鳥ではないようだが、愛知県内では生息地である渓流が減少しているため、この鳥も数が減っているのだとか。「渓流」とは周囲の環境も含めての渓流であり、ここも近い将来、渓流とはとても呼べないただの「川」になってしまっているかもしれない。

《豊田市黒田町》

ヤマツツジ多すぎ!?
ヤマツツジ多すぎ!?

 次に、先週に続いて黒田貯水池の下の沢へやって来た。先週はヤマツツジは未開花のものが多かったが、この日は見事に咲いていた。

 が、ちょっと咲きすぎじゃねえの? 先週は未開花だったので目立たなかったが、何と、山の中はヤマツツジだらけ! 「全山これヤマツツジ」と言ったところ。こんなにヤマツツジだらけだと、逆にキャッチングポイントになり得ないかもしれない。実際どこで待てば良いのか分からず、仕方なく適当に写真のヤマツツジの前で弁当を食べながら待っていたけれど、この場所には何ひとつとして来なかった。

[記録]5月24日(日) 同行者 なし

愛知県豊田市(旧稲武町)井山川沿い オナガアゲハ 数頭目撃 カラスアゲハ 1ex.目撃

愛知県豊田市(旧稲武町)黒田町 オナガアゲハ 少数目撃

愛知県北設楽郡設楽町田峯 ミヤマカラスアゲハ 1ex.目撃 オナガアゲハ 数頭目撃

 


■ 5月29日(金) 愛知県のミヤマカラスアゲハ(パート6)

 いよいよ愛知県内のミヤマカラスアゲハ探索の最終日である。初めてのことで手探りだったので仕方ないが、実は少し後悔していた。初めから三河山間部の高標高地が本命と考えていたのに、その本命の場所へ行く時期を逃したと感じていたのである。三河山間部には1000m級の山や高原があるので、その辺りではミヤマカラスアゲハの適期は5月下旬だろうと漠然と考えていた。ところが、行く直前になって泥縄式に地形図で調べてみると、お目当ての山塊の標高は全体として優に1000m以上あっても、その付近の渓谷の標高は例えば600m-800m程度しかない、という当たり前すぎる事実に今さら気づいた。

 今さら気づいてももう遅い。標高600m-800mで発生しているのなら恐らく5月20日頃が適期だろう。だから行く前から少し憂鬱だったが、今さらジタバタしても仕方がないので、来年の下調べと思って前向きに取り組むことにする。

山腹の路傍に咲く見事なヤマツツジ。
山腹の路傍に咲く見事なヤマツツジ。

 この日は面の木峠を中心に谷筋を探すが、これといった場所が見つからない。峠付近には自然林が多いが、谷筋を少し下るとたちまち植林ばかりになってしまう。午前中は車で流しながらあちこち探したが食指の動くような場所は見つからず、結局、昼からは腹をくくって山腹で見つけた見事なヤマツツジの前で粘ることにする。谷筋からは少し離れているし尾根地形でもないが、他に適当な場所が見つからないので仕方ない。

ミヤマカラスアゲハ ♂
ミヤマカラスアゲハ ♂

 結果的に、この場所で粘ったことは多分正解だった。黒色アゲハは多いと言うほどではないがポツポツ飛来し、ミヤマカラスの割合が高かった。これまでの他の場所では、オナガ:ミヤマカラスは10:1ないしはそれ以上に圧倒的にオナガが多かったが、この場所は4:1ぐらいだったろうか。オナガが多くないということもあるが、ミヤマカラスは今までで一番多かった。多かったと言っても20-30分に1頭来る程度なので、はっきり言って退屈してしまう。しかも、ネット出来たのは写真の1♂だけで、かなりのボロだったのでリリース。

 なぜ、1頭しかネット出来なかったのかは訳がある。止まらないのだ。止まったのはこの1頭だけで、他はせっかくヤマツツジに飛来しても吸蜜することなくすぐに行ってしまった。ミヤマカラスアゲハは飛翔高度が高いので、上からスッと降りて一瞬なめまわすようにヤマツツジの周りを飛ぶのだが、「来たっ!」と思って構えた次の瞬間にはことごとく飛び去ってしまった。その間ほんの1、2秒から長くて3秒。

 最初は訳が分からなかった。しかし、何度も観察しているうちにようやく気づいた。単なる通過個体ではなくて、確かにヤマツツジに飛来している。一瞬とはいえヤマツツジをなめるように絡む様子は、探雌飛翔に違いない。つまり、最初から蜜を求めてやって来たのではなくて、♀が吸蜜していないかチェックしに来たのだ。

 そういえば、周辺は前回の黒田川ほどではないにしろ、山の中のいたる所にヤマツツジが咲いている。どいつもこいつも、すでに他のヤマツツジで蜜を吸っていてお腹いっぱいなのだ。最初からそうと分かっていれば対処のしようもあったが、一瞬で逃げられて訳が分からずオロオロするばかりだった。ようやくそれと気づいた頃には、日が西に傾きかけていた。

[記録]5月29日(金) 同行者 なし

愛知県豊田市(旧稲武町)面の木峠 カラスアゲハ 1ex.目撃

愛知県北設楽郡設楽町津具 

ミヤマカラスアゲハ 1♂(破損リリース) オナガアゲハ 多数目撃 カラスアゲハ 数頭目撃

アサギマダラ 1ex.目撃 ウスバシロチョウ 数頭目撃