コロナ禍となって2度目の春。前年は緊急事態宣言がギフチョウシーズンを直撃し、「県境をまたぐ移動の自粛」によって身動きが取れなくなってしまった。あれから1年。とにかく人との接触を避けるべきことがはっきりしたので、一人で山に分け入って、どこにも立ち寄らずに真っすぐ帰る。そんな行動を徹底することにした。
3年前に来たときは林道が荒れていて、シカの食害も進み風前の灯という印象だった。久しぶりに訪れると、林道が綺麗になっているばかりか、途中のスギ林も間伐や枝打ちをしたらしく以前よりも明るくなっていた。山仕事の人が入るようになればシカが減ることが期待されるが、シカの食害は相変わらずのようで草はほとんど生えていない。
そんな中、けなげにもカンアオイがかろうじて新葉を出していた。周辺のサクラは3~7分咲き。朝はやや冷え込んだが10時半ごろから気温も上がり、ギフがいたら飛ぶコンディションと思われたが結局見ず。
かつて初めて雅恵を連れて採集に出かけた場所が、ここ、岐阜市雛倉だった。もう30年以上も昔のことだ。うららかな春の野辺で、ギフチョウと戯れた日のことが思い出される。
今ではご覧のとおり産廃の処分場がすぐ隣にできてしまい、環境は著しく悪化。かつてギフチョウが見られた写真中央付近は、スギが成長して暗くなっていた。カンアオイは今でも一部にかろうじて残ってはいたが、ギフチョウの姿はなかった。
ここは比較的最近まで採集者が訪れていたが、現在はどうなのだろうか。西濃各地で最近しばしば見かける現象だが、カンアオイは結構生えているが地表面が荒れて小石がゴロゴロしている。ご覧のとおり、カンアオイの株は少ししなびていて元気がない。きっとゲリラ豪雨などによって表層の腐葉土が流出し、保水力を失いつつあるのだろう。だとすると当地も風前の灯なのかもしれない。
尾根の登り口付近には少ないながらカンアオイが見られ、ここはまだ有望な印象。少し山あいのため、今のところ温暖化の影響がそれほど深刻でないのかもしれない。しかし、この日は残念ながら昼頃から雲が多くなり、北風が強まって寒くなってしまった。
なお、サクラは意外にも本巣と同じ3~7分咲き。ミツバツツジは本巣も当地も開花どころか蕾はふくらんでもいなかった。見ようによっては、サクラだけ他より進んでいるようにも感じられた。
[記録]3月26日(金) 同行者 なし
岐阜県本巣市外山 カンアオイ確認
岐阜県岐阜市雛倉 カンアオイ確認
岐阜県岐阜市佐野 カンアオイ確認
岐阜県山県市(旧美山町)辷石 カンアオイ確認
前日の西濃とは打って変わって、ここ犬山の丘陵部ではミツバツツジが満開だった。
昨年見つけた小さなピークに腰を下ろす。昨年は北風の冷たい日でこのピークにギフは来なかったが、時期と天気さえ良ければ必ず来ると信じて1年越しの再訪。この日は高曇りで無風。朝はやや冷え込んだが10時半ごろには絶好のコンディションとなった。果たして、10時40分と11時15分に期待どおり計2♂が上がってきたが、以上で打ち止め。昼頃からは昨日同様に風が強まり、雲が多くなって日照がなくなってしまった。
ちなみに、「桜ナビ」で3月25日に明治村が早くも「満開」となっていたためこの日の犬山行きを決めたが、実際には入鹿池畔のサクラはこの日の朝で「5分咲き」、帰りで「7分咲き」程度。危うくだまされてフライングのタイミングだった。
[記録]3月27日(土) 同行者 雅恵
愛知県犬山市滝ヶ洞周辺 ギフ 2♂(内1♂雅恵採集)
この春はただでさえ暖冬の影響でギフの発生が早まることが予想されたのに、低地のギフが発生を始める時期になって、この1週間ほどさらなる異常高温が続いた。過去2年のデータと比較すると、その尋常でない様子がよく分かる。
<この1週間余の名古屋の最高気温> ※赤字は18℃以上。
日付 |
2021年 | 2020年 | 2019年 | |
3月27日(土) |
19.8 |
16.3 | 20.1 |
(単位:℃) |
28日(日) | 17.6 | 18.4 | 17.1 | |
29日(月) | 24.5 | 15.2 | 17.7 | |
30日(火) | 23.7 | 11.1 | 16.3 | |
31日(水) | 23.8 | 13.6 | 12.7 | |
4月 1日(木) | 24.1 | 16.8 |
14.5 |
|
2日(金) |
23.6 | 16.3 | 11.8 | |
3日(土) |
20.9 | 19.3 | 12.8 |
この時期は普通は天候が意外と不安定で、三寒四温と言われるように寒暖を繰り返しながら少しづつ暖かくなっていく。それが今年は怒涛のように春がやって来て、あっという間に過ぎ去ってしまったかも…。
というわけで季節が全くつかめないので、発生状況をつかむためという言い訳で何度も採っている既知の産地にやって来た。
しかし、天気予報に裏切られて完全な曇り空。気温も上がりそうにない。これでは既知産地に来た意味が全然ないよ。仕方なく周辺でポイント開拓を試みるも、気合が入らず成果なし。
ちなみにこの日の当地は、サクラは満開~散り初め。尾根にはいつもの黄色いツツジが咲き誇っていた。
午後から犬山で探索。相変わらず日差しはなく、東海自然歩道に沿って付近の丘を少し歩いたがギフの姿はなし。
このところの高温続きで1週間前と比べて劇的に季節が進んだ印象で、木々の芽吹きの状態からはギフチョウは発生後半~末期と想像できる。だとすると、今年の犬山のギフの適期は3月29日から31日頃だったということか。
1986年発行の「ギフチョウ88か所めぐり」(蝶研出版)の中で、「犬山市池野」は4月13日が適期とされている。さらに本文中には「1965年4月27日 2頭目撃、同年5月5日 1♂破損」の記述のほか、1979年4月22日に同地を訪れて観察した際の記述がある。当時は、3月中にピークを迎えてしまうことなど全く想像もできなかったに違いない。
[記録]4月3日(土) 同行者 雅恵
岐阜県白川町野原 ギフ null カンアオイ確認
愛知県犬山市塔野地 カンアオイ確認できず
このところ土日の天気が良くないまま、うかうかしていると近場のギフチョウシーズンが終わってしまいそうなので、この日は平日に休みを取って山へ行く。
当地では大きく分けて2か所カンアオイ自生地を知っている。そのうち1か所は、前年久しぶりに訪れて壊滅的に環境が悪化しているのを目の当たりにしてしまった。その時、もう1か所の様子は確認できていない。というのは、もう1か所は道沿いに流れる沢を渡ればすぐそこなのだが、以前は渡れた沢が渡れなくなくなっていた。橋がなくなっていたとか水かさが増していたとかではない。橋はもともとなくて、何を隠そう加齢に伴う身体能力の低下により、苔むした岩の上で足が震えて危なくて渡れなかったのだ。情けねー。
もともとは2013年3月3日にシーズン前の下見で見つけた場所で、スギとヒノキの植林の林床にまとまった量のカンアオイがあった。ところが、前述のように沢を渡れなくなったことと他のポイントで少数ながら手軽に御嵩ラベルのギフを得られたため、その後はギフの時期に再訪することなく月日が過ぎた。
この日は最初から橋のある場所まで大きく遠回りしてポイントに向かった。ポイントにたどり着いてすぐ、もっと早く来なかったことをひどく後悔した。スギとヒノキの植林が伸びて暗くなっていたのだ。カンアオイは部分的に残ってはいたが、わずか8年でかつての面影はなくなっていた。
気を取り直して近くの東海自然歩道を歩く。もし先ほどの場所でギフが発生していれば、この道まで上がってくるかもしれない。そう考えて途中のコブをチェクしながらゆっくり歩を進めるが、天気はいいのにギフは現れない。
しばらく歩いて気付けば瑞浪市との境まで来てしまった。とその時、前方を飛ぶギフを発見! 瑞浪ラベルではどうも気合が入らないなあと思いながら駆け寄ったら、何と振り逃がし! こうなると何だか意地になって、瑞浪ラベルでもいいから採っておこうと先へ進む。一見したところ御嵩町側と大して環境は変わらないのに、なぜか瑞浪市側に入った途端にギフが出てくる。
とその時、採集者がやって来た。挨拶してすれ違い、少し行くとまた1人いた。その先にさらにもう1人…。わずか数百メートルの間に私を含めて4人。言っときますけど今日は平日だよ。そう言う自分も平日に来ているけど…。
再び気を取り直して御嵩町の別のポイントへやって来た。このポイントこそスギが伸びると風前の灯と心配していたが一部に自然林が残っており、そこだけ林床が明るくカンアオイがズクズクに生えていた。とはいえ猫の額ほどの発生地で、この先も安泰とは言えないかもしれない。
瑞浪では3♂とも完品だったのに、当地は6♂で完品なし。発生期に大きな違いがあるとは考えられず、瑞浪は採集圧がかかっているためと思われた。
[記録]4月7日(水) 同行者 なし
岐阜県御嵩町津橋 ギフ null カンアオイ確認
岐阜県瑞浪市日吉町 ギフ 3♂
岐阜県御嵩町大久後 ギフ 6♂
少し前、中津川市の旧福岡町エリアで、聞いたことのないギフの記録を目にした。地図で確認すると結構意外な場所だった。しかも、近年たくさん採れている。地形図とGoogleのストリートビューを使って下調べをした結果、発生地の可能性がありそうな場所として3か所に目星を付けた。
1か所目。
思ったよりも明るく開けた場所で、よく整備されている。ここでギフが発生していれば多産する可能性を感じた。しかし、見通しがきくにも関わらずギフの姿はなし。林内は立入禁止のため十分探せなかったが、少なくとも道沿いではカンアオイは見つからなかった。
そこで道を奥へ奥へと詰めたところ、沢地形となった辺りでカンアオイを発見! スギの植林や、やや暗い林も多いが所々に明るく開けた場所もあり、水の流れがある緩やかな傾斜地となっていて有望と感じた。木々の芽吹きの状態からは時期的にもバッチリと思えたが、残念ながらギフは現れず。
あえて言うと、緩やかな傾斜地とはいえわずかに南西向き。地形図で確認すると沢を挟んだ反対側が北東向きなので、そちらを探すことにする。
2か所目。
目指す北東向き斜面は、途中で道が立入禁止となっており断念。ただ、その手前で良好な環境を見つけて探索すると、水路沿いにカンアオイがたくさん生えていた。明るい自然林でいて当然! という環境に見えたが、なぜかいない。
近くのピークに向かう小径を見出してこれを登るが、途中で立ち消えたうえに「林内立入禁止」の札が至るところにぶら下がっているため断念。それにしても、天気はいいし季節感もバッチリなのにギフの姿はない…。
最後に3か所目。
正直ここはオマケであって期待薄と思っていた。というのもモロ西向き斜面で、もしこんな場所でギフが発生していたら、これまでの私の調査研究はいったい何だったのか(←そんな大そうなものではありません)、レポートはすべて書き直し(←そんなレポートは実在しません)というほどの場所である。
ではなぜそんないそうもない場所に目星を付けたかというと、「何気にストリートビューを見ていたらビビッ!と来たから」という謎の説明でお許しいただけるだろうか。
そして、だまされたと思って来てみて・・驚いた。マジか。モロ西向き斜面なのに、しっとりと湿り気のあるいい感じの環境で、道ばたにズクズクにカンアオイが生えていた。西向きで日差しが強いせいだと思うが、すでにかなり新葉が伸びていた。
斜面に小径が付いていたので登ってみると、意外にも中腹に少しだけ平坦な場所があって水路が通っていた。この水路沿いにもたくさんのカンアオイが見られ、ここが蝶道になりそうな気がした。
しかし、実際は「気がした」だけで、ギフが現れることはなかった。
天気は絶好で環境も良く、食草もてんこ盛りあって、なのにギフがいない・・なぜだ?!
ひとつ考えられるのは、時期がズレているということ。そこで急きょ既知産地の茄子川に発生状況を確かめに車を走らせた。決断が遅かったので現地着が午後3時近くになってしまい、いくら天気が良くてもさすがにギフの姿はなかった。
ちなみにこの日の茄子川のポイント周辺は、いつもの民家のシダレザクラはいつもどおり満開。木々の芽吹きは8♂を採集した2020年4月15日の時よりも若干進んでいるようすで、ミツバツツジはすでに終わっていた。一方、カンアオイの芽吹きは多少遅れていて新葉がちょうど地表から顔をのぞかせたところだった。
この様子からすると、茄子川のギフはこの日ほぼ適期だったのではないか。だとすると、先ほどまでいた場所は未発生ということはありえないので時期遅ということか…。
ところがである。後日、驚きのニュースが舞い込む。知り合いが2週間後の4月25日に中津川市手賀野でギフチョウを8頭ほど採集・観察されたとのこと。しかも当日は、交尾個体や羽化直後の個体も観られたらしい。手賀野と茄子川は標高はほぼ同じながら斜面の向きの関係で、茄子川のほうが多少発生が早い。とはいえ手賀野で2週間後にまだ羽化直後の個体がいるとはいったい…??
[記録]4月11日(日) 同行者 雅恵
岐阜県中津川市(旧福岡町)某所 ギフ null カンアオイ確認
岐阜県中津川市茄子川 ギフ null カンアオイ確認