2022年採集日記(上)


 2020年と2021年はギフチョウシーズンを狙い撃ちしたかのように緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令され、そのため県境をまたぐことを自粛せざるをえなかった。今シーズンは県境を越えても白い目で見られることはなさそうなので、久々に遠出することにした。


■ 4月8日(金) 広島県備後地方のギフ

生息地付近の環境。
生息地付近の環境。

 ということでやって来たのが、これまでに何度も通っている福山市のポイント。我ながら進歩も成長もないわけだが、シーズン開幕戦でいきなりの遠出となると時期を外したくない気持ちが強く、知っている無難な場所をつい選んでしまうのが人情というもの。

 だが、こういう守りの姿勢だと、えてして物事は上手くいかないものらしい。時期を外したくなくて選んだはず場所で、まさかまさか‥時期を外したようだ。

 最初のポイントは1♂のみで、これが完品だったのは採集圧の影響か。次のポイントも数が少ないうえに鮮度にバラつきがあるは時期遅の証拠。開幕ダッシュのはずがいきなりつまづいた。

[記録]2022年4月8日(金) 同行者 なし

広島県福山市柞磨(1) ギフ 1♂ 完品

広島県福山市柞磨(2) ギフ 4♂ 鮮度マチマチ

 


■ 4月9日(土) 島根県安来市のギフ

 備後が遅いのなら三次(みよし)も遅いに決まっている。ただ、三次市周辺にはたくさん産地があるので、中にはまだ間に合う場所があるかもしれない。とはいえ行ったことがないので詳しいことは分からないし、前日の失敗で懲りたので、「まだ間に合うかもしれない場所」ではなくて「そろそろ出ているであろう場所」を攻めようと考えた。

 こうして前日のうちに150㎞近い転戦。途中で峠を越えたら道路沿いに残雪がべっとりあったり、桜が未開花だったり。そのたびにフライングの不安におののき、車窓の景色に一喜一憂しながら車を走らせた。

 そして朝、ポイントの入口には思いがけず先客がいた。私が車を停めるとすぐにこっちへ近づいて来るので因縁でも付けられるのかと一瞬ビビったが、よく見ると、最近すっかりご無沙汰してしまっているW氏夫妻だった。ご夫妻とは3年前に新潟県の十日町の道の駅で偶然会って以来で、名古屋とその近郊の人間同士が、よくもまあこんな遠くで偶然会うものだとつくづく感心する。

ポイント付近の環境。
ポイント付近の環境。

 さて、この日のポイント近くの桜は朝の時点でギリギリ未開花。木々の芽吹きもかなり浅い。普通なら太鼓判のフライングである。先ほどW氏から「昨日までにもうかなり採れている」と聞かされても、正直半信半疑だった。だから新鮮な♂がポツポツ出てきた時は、安堵と同時に発生初期と信じて疑わなかった。

 それがどうだ。2桁に達したころに最初の♀が採れて少し驚いたのを皮切りに、その後次々に♀が出てきて、いつの間にか林道に出てくるのは♀ばかりになっていた。すべて交尾済みである。カンアオイは全く芽吹いていない。ということは下で発生した個体が上がってくるのだろうか。いやいや、♂がこんなにたくさんいるのに♀が下から上がってくる産地なんて聞いたことがない。♂が多ければ、♀が上がってくる途中で♂に見つかって交尾が成立する。交尾が解けた♀はそれ以上は上がらないはずだ。つまり交尾済みの♀がウヨウヨいるということは、その付近かせいぜいすぐ下で発生していると考えられる。サクラは未開花で、カンアオイは全然芽吹いていないというのに。長くギフをやっているが、こんな経験は初めてのように思う。

 

 ところで、この日は朝からやたら振り逃しが多かった。言い訳すると、このところ緑内障が進行して視野が狭くなっているせいと思う。自覚症状はほとんどないが、唯一症状を自覚するのがギフチョウの採集時である。振り逃がしには3パターンある。

【パターン1】

 林道の向こうでうろつくギフを見つけて駆け寄る。今の今までそこにいたはずなのに、近くに来ると急に見失う。おっかしいなあ、と思った次の瞬間不意に目の前を横切り、慌てて振って振り逃がし…。

【パターン2】

 真っすぐこちらに向かってギフが飛んでくる。十分に引き付けて、スパッと振れば百発百中!のはずが、殺気を感じたギフが直前で急に向きを変える。よくあることだが、この瞬間視野から消えるのだ。きっとギフもパニクっているが私もパニクって、慌てて振って振り逃がし…。

【パターン3】

 真っすぐこちらに向かってギフが飛んでくる。十分に引き付けて…また直前で消えるのではないかと疑心暗鬼に陥り、十分引き付けずにへっぴり腰で振って振り逃がし…。こうなるともう悪循環である。

 かくして、かつて9割5分を誇ったはずのギフの打率が(←自己評価甘めかも)、この日は6割ほどに急落。朝から1回おきに振り逃がし、♀が多くなってきてようやく6連勝と思いきや、午後になって飛び方が不規則になって4連敗、といったザマで、30頭近く採る間に20頭近く振り逃がした。自分史上、1日の最多振り逃し記録を大幅更新!

[記録]2022年4月9日(土) 同行者 なし

島根県安来市伯太町 ギフ 18♂10♀(内2♂ボロ、リリース)

 


■ 4月10日(日) 岡山県某所のギフ

 岡山県はギフチョウの記録が極めて少ないことで知られる。大きな分布の空白地帯なのだ。かつて真庭郡八束村(現真庭市)の高張山で採れていた時期があったが、ここも記録が途絶えて久しい。

 その岡山県の某所で数年前から確実な記録が出ていることは承知していたが、詳しい場所は分からなかった。それが何と、今回広島へ出発する直前に情報が転がり込んできて、産地の字名まで知ることとなった。出発準備であわただしいさなかに地形図をチェックすると…マジか。嗅覚が働いて、簡単に分かってしまった。きっとここだ。ここに違いない!

 とはいえピンポイントで分かったわけではなく、きっと山中を薮漕ぎで探し回ることになる。勝手に分かったつもりになっているだけで、本当にそこだという確証はない。それに、そもそも今回は時期的にまだ早いと思っていた。ところが備後も島根も予想以上に発生が進んでいたため、岡山へ探しに行きたい気持ちが段々強くなってきた。

 前夜、車中泊の道の駅でパソコンであれこれ調べながら、この日の行先をまだ迷っていた。明日も天気が良さそうだ。せっかく遠くまで来ているので、どうせなら採れる場所へ行きたい。でも初日に守りの姿勢で失敗しているので、やっぱり攻めの姿勢でいこう。さんざん迷った挙句、最後に仲間のグループLINEに「明日は岡山へ下見に行きます」と送信して退路を断った。

岡山県産ギフ、ゲット!
岡山県産ギフ、ゲット!

 朝、予定の場所に車を停めて準備を整えながら何気にLINEを確認すると、何と、そもそもの情報発信元のM氏が「私も今日は岡山のポイントに来ています」と。今しがたの書き込みだ。

 ふと振り返ると、採集者らしき2人連れの姿が。まさかと思って声をかけると、まさかまさかのM氏本人だった。やっぱりこの場所だったんだ!

M氏「ポイントは分かりますか?」

私  「全然分かりません」

M氏「じゃあ、一緒に行きましょう」

 奇跡のような展開で、労せずしてトップシークレットであるはずの岡山県産のギフを採らせていただいた。採らせていただいたどころか、緑内障の影響で、例によってしつこく何度も振り逃がさなければ軽く2桁アップしていた。面識など無いに等しいM氏に親切にご案内いただき、感謝感激雨あられ。帰りのロングドライブも、大阪市内の高速の渋滞も、心ウキウキ、何のその。

[記録]2022年4月10日(金) 同行者 M氏とご子息(偶然現地で合流)

岡山県某所 ギフ 9♂(鮮度良好)

 


■ 4月17日(日) 岐阜県郡上市白鳥町のギフ

 この日は奥美濃へやって来た。目的の場所は、これまでに何度も通っているが実は雅恵が1♂採集しただけで、私はまだ見てもいない。

(これまでの記録)

2016年4月2日(土)カンアオイ確認(下見)

2016年4月10日(日)ギフ null(日照なし。時期尚早か?) 

2017年3月中旬 残雪の中、別ルートを下見

2017年4月22日(日)ギフ null(尾根は強風)

2018年4月20日(金)ギフ 1♂(雅恵採集)

ヒメカンアオイ。
ヒメカンアオイ。

 2度も下見に行って、かなり広範囲にわたって探している。カンアオイはあちこちにあるがどこも少なく、まとまって生えている場所がない。したがって、どこで発生しているのか判然としない。こういう場合は尾根かピークを攻めるに限る。そう考えて3回実行して3回討ち死にした。

 この日は、最初の下見の時に真っ先に見つけたきり、その後一度も行っていない中腹のポイントらしき場所へ向かう。実は、その場所でそこそこ採れているという確実な情報を得ていた。今回は最近知り合った大学生のH君を連れて行った。

 結果は、H君はこの場所で見事5♂を仕留めたが、私はというと、これでもか!これでもか!としつこく何度も振り逃がして、遂にnullという屈辱的な結果となった。どうやら当地は私にとって鬼門らしい。その後、曽部知谷へ転戦し、少しだけ拾ってお茶を濁して帰った。

[記録]2022年4月17日(金) 同行者 H君

岐阜県郡上市白鳥町某所 ギフ null(H君 5♂)

岐阜県郡上市白鳥町曽部知谷 ギフ 3♂(H君 2♂1♀)

(つづく)