4 服装・装備編


 Q16  帽子はどんなものが良いか?


頭にタオルを巻いた筆者の写真
タオルを頭に巻いた筆者。本人はいいつもりなので決して笑ってはいけない。

【解 説】

 長竿を使う時はキャップのつばが有効で、ヤブに入る時はハットのひさしは邪魔になる、というのは国内の話。暑い所では帽子は必携と思われがちだが、私に言わせればジャングルでは帽子なんて必需品どころか全くの不用品だ。なぜか? 暑い所で帽子をかぶると余計に暑いからである。

「そんな無責任な。熱中症になったらどうしてくれる」と言われそうだが、熱帯の日差しは想像以上に強烈なので、たとえ帽子があっても日向など歩かないほうが良い。一方、本格的なジャングルの中は木漏れ日しか当たらないので、帽子がなくても全く心配ない。しかし、ジャングル内の蒸し暑さは半端じゃないので、帽子なんかかぶっていたほうが逆に熱中症で倒れそうだ。

 ちなみに、どうしても日向を歩かなければならない時は、タオルを剣道の面の下に着ける手拭いの要領で頭に巻く。タオルは目が粗いので風通しが良いし、吸汗性にも優れているのでとても快適である。ただし、真っ白なタオルは蝶が逃げる。

 


 Q17  Tシャツでも採集できるか


【解 説】

 ジャングルはなにしろ蒸し暑いので、汗っかきで暑がりの私などは長袖のシャツが辛くてTシャツでやりたくなる。しかし、ジャングル内は蚊が多いうえ、棘のある植物や毒をもつ植物も多いので、半袖はもってのほかと思う。

 ジャングルから一歩外へ出ると汗だくのシャツを脱ぎ捨てたい衝動に駆られ、炎天下のオープンランドで数時間、上半身裸でやったことがあるが自殺行為だった。前述のように、熱帯の日差しは想像よりはるかに強烈なため、その晩、極度の日焼けのために寝付かれないほどの熱い痛みを両肩に感じた。帰国の途に着くころには両肩ともケロイド状に焼けただれ、その肩に重い重いザックを背負うハメとあいなった。(←ただのバカ)

 


 Q18  虫除けスプレーは必要か?


【解 説】

 虫採りに行くのに「虫除け」とはこれ如何に。などと冗談を言っていないで、これは素直に持っていくべきだ。蚊を甘く見ると大変なことになるし、それ以前に、蚊の多い場所では採集どころでなくなってしまう。向こうの蚊は日本のヤブ蚊より小型であまりブンブン言わないのでつい油断していると、顔の形が変わるくらい刺されることがある。蚊は蜂ほどではないが、刺され過ぎると体内に抗体が形成されて過剰反応を起こすようになる。すぐに汗で流れてしまうので、こまめにスプレーする。

 真冬に海外へ行く場合、国内で虫よけスプレーを買えないことがある。そこで現地でこれを調達しようとすると、薬品なのでスーパーには置いていないし、近年日本にはびこるアメリカ式ドラッグストアのようないい加減なものはタイにもマレーシアにもないので、薬局で対面販売で買わなければならない。マレーシアの薬局では「モスキート・ガード」で通じた。

 なお、最近ホームセンターなどでも売られている「どこでもベープ」の類も意外に有効のようではあるが、一方でトラップをかけて蝶をおびき寄せようとしているときに、これが相矛盾する効果を発揮するのではないかという懸念はある。

 


 Q19  ヒルを防ぐ有効な方法は?


【解 説】

 ヒルは蚊やダニと違って無害なので必要以上に恐れることはない。何か所も噛まれると靴下やズボンのすそが真っ赤に染まり、血糊でべとべとになっていたりする。男は日ごろ血を見慣れていないので、こんなに出血して大丈夫だろうかと心配になったりするが、こんな程度でビビッていたら女は大変である。

 とはいえヒルというヤツは、その容姿といい仕草といい、なぜか猛烈に気色悪くて、ミミズやオケラやアメンボのようには友達になれそうにないので、なるべくなら御免こうむりたい。しかし、ヤツらは半端でなくしつこい性格の持ち主のようで、いくら足元をかためてもどこからか潜り込んでくるし上からだって降ってくる。したがって今のところヒルを完全に防ぐ方法は見当たらないが、せめて足元だけでもしっかりかためておけば8割方は防げる。(残りの2割は潔くあきらめる。)

足元のかため方の写真
足元のかため方。たったこれだけのこと。

【実例1】足元のかため方

 最初のころ、皮製の編み上げブーツを履いて上からスパッツを着けてみたが、何の意味もなさなかった。特にスパッツは、中にヒルが入り込んでいても気付かないので逆効果と言える。

 そこで、ヒルが目立つようになるべく白っぽい靴下を履き、ズボンの裾を靴下の中に入れる。靴の開口部に、靴下がベタベタになるくらい虫除けスプレーをしっかりかけておく。たったこれだけのことである。

 最近は、モンベルや好日山荘などでヒル避けスプレーなるものが売られている。こんな代物は以前はなかったように思うが、温暖化の影響で日本国内でもヒルが増加しているということだろうか。ヒル避けスプレーは現地でもスーパーや雑貨屋で売られている。ただし、これは靴にスプレーすべきものであって、靴下に染み込ませると肌が炎症を起こしてヒリヒリになる。

【実例2】ヒルに噛まれた時の対処法

 俗に、無理やり引き剥がすと歯が残って腐ると言うが、真偽のほどを知らない。ライターの火を近づけると簡単に剥がれるので、最初のころはいつもそうしていた。ある時、首筋を噛まれて上手く火を近づけられないでためらっていると、ここぞとばかり雅恵がにじり寄ってきた。

雅恵:ダメよ、無理に取ったら。私がやってあげる。

ライター片手に、いやに嬉しそうなのは気のせいか?

:アッチー!

首筋は肌が敏感だから余計に熱い。

雅恵:ダメよ、動いちゃ。じっとしてて。

:もういい。もう止めてくれ。

雅恵:無理に取ったらダメだってば。いいからじっとしていて。

:アチ、アチ、アッチー!

まさか、ジャングルで夫婦でSMプレイをするとは夢にも思わなかった。

 最近は慣れっこになって平気で無理やり引っぺがしているが、幸い今のところ歯が残って腐った経験はない。ただ、引っぺがしたヒルの顔をまじまじと観ると、あの軟弱な身体に似合わずカミソリのような不気味な歯を持っているのは事実である。

 

■ 最後に

 ガラにもなく前文では少し格好をつけて書き始めたが、やはりというか結局というか、ネタが尽きるのと同時に話が堕ちてきたので、そろそろやめにする。

 今後とも多分ジャングルに通い続けると思うので、いつかもっとノウハウを蓄積し、続編を書くであろうことを期して。

(2012年1月15日「みやくに通信」№195/196より)