2025年採集日記(上)


■ 3月22日(土)・23日(日) 愛知県旧藤岡町のギフ(下見)

 名古屋に下宿している大学生のH君と、このシーズンは旧藤岡町のギフチョウを探しに行く約束をしていた。旧藤岡町は愛知県下のギフチョウ産地としては犬山市と並ぶ定番中の定番と思いつつ、いざ行こうとするとどこへ行けば良いのか分からない自分に気付いた。そういえば、旧藤岡町は以前 “キャラメルの丘” で少数採ったほかは大昔に猿投山で採っただけの気がする。最近の様子はまるで分らない。

 そんなわけでシーズン前に下見に行くことにする。過去に記録のある地名と地形図を突き合わせて現地でカンアオイを探す。いつもそうだが、こういう地味な作業は行くまでは腰が重いが、いざ行ってみると思いのほか楽しくて2日連続で通ってしまった。 

谷あいの休耕田(耕作放棄地)。
谷あいの休耕田(耕作放棄地)。

 結果、カンアオイ自生地や手ごろな尾根など、ポイントとなりそうな場所を多数見出した。はじめは休耕田の奥や小さな流れの水源などに狙いを絞ってカンアオイを探したが、わりと何でもない北側斜面や尾根筋周辺にも自生していて驚いた。

 カンアオイは思ったよりも簡単に見つかる。このぶんならきっとギフチョウも簡単に見つかる…かな?

[記録]2025年3月22日(土)・23日(日) 同行者なし

愛知県豊田市(旧藤岡町)各所 カンアオイ確認

 


■ 4月5日(土) 西濃方面のギフ

 近年の温暖化でギフチョウの発生が驚異的に早まっているなか、今春は3月中旬まで低温が続いたため本来の「平年並み」の発生と予想していた。積算気温を用いた独自の発生予想では、西濃は3月31日が採集適期で3月29日(土)・30日(日)は出始め、そしてこの日は旧藤岡町がバッチリのはずだった。

 ところが、ギフチョウの発生を狙ったかのようにやって来た厳しい戻り寒波と天候不順により季節の進行が止まってしまい、名古屋市内では咲きかけた桜がなかなか満開にならず、一部では満開になる前に冷たい雨に打たれて散ったりもした。

 当初の予想がどんどん後ろへずれ込んだが、でもさすがにもう遅いよね、と心配しつつも今シーズンの初陣は1週遅れの西濃方面と決めた。前年にH君と探索した時にはフライング気味で成果なく、後日私が一人で出直してちゃっかり採ってきた場所へH君と行く。

《 山県市(旧美山町)》

ピークは平坦な地形でポイントが絞りにくい。
ピークは平坦な地形でポイントが絞りにくい。

 前年に私が採ったピークは一人で満員なのでH君に登ってもらい、私は麓のカンアオイ自生地周辺でやることにした。

 H君が藪漕ぎで斜面を登るのを見届けてしばらく、どうも麓は朝のうちは日が当たりそうにないことに気づいた。ここで粘っていても何事も起こらなさそうなので、予定を変更して道を挟んだ反対側のピークに登ってみることにする。

 ロケーション的にこちらのピークは望み薄と思っていたが、あえぎあえぎ登っていくと上でちゃんとギフが待っていてくれた。しかし頂上付近は広くて平らな地形になっているため1か所に集まらず、そのせいか見かける個体数は少なかった。

こんなもの見たくもなかった。
こんなもの見たくもなかった。

 さらにはピーク付近で見たくもない物を見てしまった。 “悪魔の遣い” シカの立派な角。どこかの道の駅か何かでこれを土産物として1万円ほどで売っていたと聞いたが、たとえ1万円でもこんなもの拾って嬉しくない。

《 山県市(旧高富町)》

延々と続く尾根道。
延々と続く尾根道。

 次に向かった先も昨年H君と二人で見つけて何度も足を運んだが採れず、後日私が一人で来てちゃっかり2♂を採ったという、いわくつきの場所である。入口からアップダウンのある尾根道が延々30分ほど続くが、採集した2♂のほか目撃も含めて一番奥のほうに昨年は集中していた。

 だからこの日は歩き始めは全くぼんやりしていて、いきなりH君がダッシュしたので驚いた。

「えっ、なに? なに?」「えっ、ギフチョウ?」「まさか、こんな場所で?」

というぐらいのボケよう。

 今年は濃淡はあるものの入口から奥まで点々といた。しかも数もそこそこいて、どうや昨年は発生初期で数が少なかっただけと判明した。

 この日は都合2か所でそこそこの数を採集でき、西濃もまだまだ捨てたもんじゃないと思った。

[記録]2025年4月5日(土) 同行者 H君

岐阜県山県市(旧美山町) ギフ 9♂(内、7♂H君採集)

岐阜県山県市(旧高富町) ギフ 15♂(内、10♂H君採集)

 


■ 4月6日(日) 愛知県旧藤岡町のギフ(パート1)

雨に濡れそぼったカンアオイ。
雨に濡れそぼったカンアオイ。

 名古屋昆虫同好会(名昆)に50年近く在籍していて、昨年は月例会で「ギフチョウ採集・観察の10か条」なるタイトルで卓話まで担当しておきながら、何を隠そう名昆主催のギフチョウ採集会に一度も参加したことがない。幹事の方から「一回ぐらい出てよ」と言われて珍しく参加することにした。

 日ごろ出ないヤツが出るとどうなるか?

 答え:雨が降る。

 とういうわけで、この日はあいにくの雨模様。それでも採集会は準備の都合もあって中止とならず、親子連れを中心に実に総勢70人ほどが参加していた。朝からしっぽりと小雨が降る中、子どもたちがネットを持って歩きまわっているのがいじらしい。大人たちは傘を差してそれを見守る。この雨模様の中、ネットを持って歩いていた大人はただの一人もいなかったと思う。そう、たった一人の例外、この私を除いて。

 午前10時前だったろうか。雨の止み間に西の空を見ると、はるか遠くにわずかに明るい雲間を認めた。朝の冷え込みがなかったので、一瞬でも薄日が差せば飛びそうな予感がした。そこで親子連れが絶対に来そうにない藪の奥深くへ濡れながら分け入って、少し開けた場所で薄日が差すのを待つことにする。

 こうして誰も来ない場所でまんまと4♂をせしめた。中には羽化したてで羽の柔らかい個体も混ざり、気温さえ高ければ少々の雨でも羽化することを知った。 

[記録]2025年4月6日(日) 名昆採集会

愛知県豊田市(旧藤岡町) ギフ 4♂

 


■ 4月7日(月) 愛知県旧藤岡町のギフ(パート2)

 この日は仕事を休んで、前日の採集会に参加できなかったH君と旧藤岡町へ行く。3月に下見をした時からかなり採れそうな気がしていたし、さらに前日は雨模様でも4♂採れたことで、この日は行く前から2人で20頭ぐらいは固いと、捕らぬ狸の皮算用を決め込んでいた。

 現地に着くと昨日の採集会に参加していた親子連れを2組ほど見かけた。昨日はあいにくの天気だったので出直したに違いないが、それにしても今日は月曜だよ。学校はどうしたの? それぞれにいろいろ事情もあろうし、子どもの昆虫採集に付き合うのだから教育熱心な親に違いないが、それにしても時代が変わったと思った。

ギフチョウが上がって来る尾根。
ギフチョウが上がって来る尾根。

 さて、親子連れに遠慮して採集会の会場付近は避け、下見で目星を付けた箇所がたくさんあるのでH君と二手に分かれて別々の尾根でやることにする。下見で期待値の高かった尾根のひとつに登ると、ほどなく期待どおりにギフが現れた。採集会場から近いとはいえ、この場所は多分誰も知らない。自力で見つけた場所で初めてギフに出会った時の感動は、何年やっていても変わらない。ただただ純粋に嬉しい。

 しかし、この日の尾根は思いがけず北風が強くて苦戦を強いられる。次が来ないので探しに行くと、風が強すぎて地面にへばりついていた個体が不意に足元から飛んであっという間に風に流されて行ってしまう。そんなことの繰り返しで、見るには見るがなかなかネットに入らない。

 それでも11時ごろから風が少し暖かくなったと思ったらようやく普通に飛ぶようになり、昼前には2桁アップした。H君の様子が気になってLINEしようと思ったところに着信があり、何と22♂採集とのこと。今日もダブルスコアか…。

 午後になっても風がやまず、さすがに尾根は無理とみて風の当たらない斜面や谷筋を中心に探していくつか追加した。この日は午前中を中心に振り逃がしや振れず逃がしが相当数あり、それでも2人で最終的に41♂の成果。これで風がなかったら50~60頭いっていたのではないか。

 最近の西濃地方の惨状を見て近場のギフはダメと決めつけていたが、愛知県内はまだ健在かもしれない。思えば西濃は温暖化に加えてシカの食害がひどいが愛知県内はまだそこまでひどくなさそうだ。温暖化はどちらも同じに思えるが実はこれも違う。西濃のカンアオイの生育を支えているのは、元々は伊吹山を越えてやって来る冬の季節風がもたらす積雪である。関ヶ原周辺は80年代までは豪雪地帯だったが今は見る影もない。

 一方、愛岐丘陵のカンアオイの生育を支えているのはこの周辺に広がる陶土層である。水はけが悪くてそこらじゅうに湿地を形成し、この土壌がカンアオイの生育を支えている。これは意外に温暖化に強いかもしれない。さすがにヒメヒカゲはいなくなったが、愛岐丘陵のギフはまだまだ健在のようである。

[記録]2025年4月7日(月) 同行者 H君

愛知県豊田市(旧藤岡町)① ギフ 16♂(内、2♂H君採集)

愛知県豊田市(旧藤岡町)② ギフ 17♂(すべてH君採集)

愛知県豊田市(旧藤岡町)③ ギフ   8♂(内、6♂H君採集)