2025年採集日記(中)


■ 4月18日(金)-19日(土) 富山県立山山麓のギフ

 「赤上がり」のギフを求めて富山県の立山山麓を久々に訪れた。

 雪深くてかつ傾斜のある産地は発生時期を読みづらい。残雪の状況次第で大幅に発生時期を外すリスクがある。実際ちょうど10年前に当地を訪れた時には、時期遅でボロが多かった。

(10年前の記録) 

 2015年4月25日(土) 同行者 雅恵

 富山県富山市立山山麓 ギフ 17♂2♀(内8♂1♀雅恵採集。他多数リリース)

 この時はお目当ての赤上りは採れず、いつかリベンジしようと思いつつ、気付けば早や10年の月日が過ぎていた。今回は4月17日(木)から4日連続で超高温予報だが、4日目の20日が雨マークだったので迷わず18-19日で出かけた。

 現地は10年前と同じくずっと下で残雪で林道が止まっていた。雪の上をあえぎあえぎ登って目的の場所に着くと、10年前とは季節感がかなり違ってまだ残雪が多い。でも、これならちょうど出始めでバッチリな気がする(←自分都合の勝手な見立て)。

見通しの良い場所にトラップを仕掛けて待つ。
見通しの良い場所にトラップを仕掛けて待つ。

 10年前この付近は乱暴に伐採されていた記憶だが、そのまま植林されずに自然林が再生したのか明るい低木林になっている。足元にはカンアオイが多く、大発生地のように思える(←自分都合の勝手な見立て2)。まずは見通しの良い場所にトラップを仕掛けて待つが、いつまで待っても来ない。というか朝から気温は高いが雲が多くて日照がないのだ。飛びそうで飛ばないビミョーなコンディションとはこのこと。 

最初の1頭がいきなり赤上り!
最初の1頭がいきなり赤上り!

 待つこと1時間。ようやく日が差し始めたらポツポツ出てきたが、なぜか1♂しか採れず。しかしこの最初の1頭が赤上りでかつド完品。 やったね!どうやら今日は引きが強そうだ(←自分都合の勝手な見立て3)。

 でも結局そんなことは全くなくて、この日はその後1♂を追加しただけで終わってしまった。 

 2日目。前日の貧果が信じられず、何しろ高温なので今日こそはドバっと出ると予想して(←自分都合の勝手な見立て4)、朝からのこのこ昨日と同じ場所へやって来た。何とかのひとつ覚えよろしく同じ場所にトラップを仕掛けてしばらく待つ…。どうもおかしい。今日は朝から晴天で昨日以上に気温は高く、なのに昨日よりさらに低調な気配…。

 10年前は時期遅だったので迷わずここから上を攻めたが、今回は発生初期の様子なので上を攻めるのは勇気がいる。でもここで粘っても何も起こりそうにないので、早めに見切って林道を登り始めた。しばらくは斜面の向きの関係で単調な道が続く。10年前もそうだったが山全体にサルが多く、歩きながらサルの群れに包囲されている不安がある。

高木の上のサル。
高木の上のサル。
ズームで見てみると、盛んに木の芽を取って食べていた。
ズームで見てみると、盛んに木の芽を取って食べていた。
こちらはボスザルか?
こちらはボスザルか?

 かなり歩いて最初の尾根に着く手前で、ブナやミズナラなどの大木が惜しげもなく皆伐されている現場に出くわした。この林内が午後のポイントだったと記憶していたが、ひとつ当てが無くなった。尾根筋の林道上にも10年前はギフの姿があったが、今回はサッパリ見なかった。

ブナやミズナラなどが惜しげもなく伐採されていた。
ブナやミズナラなどが惜しげもなく伐採されていた。
しかも一面皆伐されていた。
しかも一面皆伐されていた。

ここから登山道。目のくらむような急登。
ここから登山道。目のくらむような急登。

 こうして何も得られないまま登山道の入口に着いてしまった。目のくらむような急登で、10年前はここで引き返した。

 時刻は11時過ぎ。ここで少し早い昼食をとりながら、食い入るように地形図を見ていた。残雪は多めながら気温が上がり、きっとどこかで発生しているに違いない…。

 そうか、ここだ。ここに違いない!

 どこかで発生しているとして、どこで発生したとしても必ず向かうであろう尾根が、ちょうど目の前に続く急登の先にある。ここからなら急登とはいえ目星を付けた尾根まで標高差たったの100m。これはもう採ったも同然(←自分都合の勝手な見立て5)。

 勇んで登り始めてすぐだった。距離にしてほんの20m足らず。登山道の残雪上に、ハッキリ、クッキリ動物の足跡。それも自分がこれから行こうとしている尾根のほうへと向かっていた。―― これって、きっとサルだよね?(←自分都合の勝手な見立て6)

残雪上にハッキリ、クッキリ動物の足跡!
残雪上にハッキリ、クッキリ動物の足跡!
この大きさってことは…?
この大きさってことは…?

 サル? この大きさでサルって、ゴリラじゃね?

 冗談言ってる場合じゃない。気温は25℃前後まで上がっている。この高温でこんなに鮮明に爪の跡まで残っているということは、今しがた私が昼飯を食べている最中にここをクマが通ったかもしれない。てことは、もしやまだ近くに…?

 そう思うと欲と恐怖のせめぎ合いはあっけなく恐怖の勝ちで、転げ落ちるように急斜面を下った。こうしていよいよ行く当てが無くなった。

 ♪そして僕は途方に暮れる♪ ―― なんて言ってる場合じゃない。とりあえず、行きにチェックを怠った林道脇の小さなコブを藪を漕いで覗いてみると、失意の私を慰めるかのように、ちゃんとそこにギフが待っていてくれた。 

[記録]2025年4月18日(金) 同行者 なし

富山県富山市立山山麓 ギフ 2♂(内、1♂赤上り)

[記録]2025年4月19日(土) 同行者 なし

富山県富山市立山山麓 ギフ 5♂

 


■ 4月26日(土)-27日(日) 岐阜県数河高原と周辺のギフ(パート1)

 飛騨ギフを採ったことがないというH君のリクエストにお応えして、安直にも数河高原へ1泊2日で出かけた。この周辺はサイシン食いの個体群で本格的な飛騨ギフとはイメージが違うが、私にとって “庭” なので、誰も来ないマイポイントをいくつか案内しようと考えた。

尾根筋の小径を登る。
尾根筋の小径を登る。

 まずは行きがけの駄賃で旧古川町の低標高のポイントに立ち寄る。正直もう遅いと思っていたが麓のサクラがちょうど満開で、もしかするとバッチリかも…。久しぶりのため登り口が見つからず、面倒なので適当に藪漕ぎで登って尾根筋の小径に出る。私は小径が途切れる辺りで粘ることにし、H君は藪漕ぎでさらに上へ向かった。

 登って間もなく最初の1頭が9時半で、ややあって次がいきなり♀だった。鮮度良好で交尾済み。立て続けに♂も現れたことから付近で交尾していたと考えたい。でも朝方やや低温だったことを思うと交尾が解けるには時間的に早すぎる。交尾済みの♀が下から上がってくることはもちろんありえない。そこで想像だが、前日羽化した未交尾♀が尾根で一夜を明かし、この日の朝早くから交尾していた。でなければ前日の午後に交尾が始まり交尾したまま尾根で一夜を明かした。

 その昔、私が高校生でギフチョウの飼育をしていた時のこと。春休み中のある日、羽化箱で羽化した個体が部屋のレースのカーテンを登るようにセットして朝から外出し、日没後の夕方6時半に帰ったらまだカーテンにとまって交尾しているペアがいて驚いたことがあった。しかもその時点で交尾盤はまだ少ししか形成されておらず、午後遅い時間から交尾が始まったと推測された。屋内と屋外では条件が違うかもしれないが、自然界でもそんなことがあるかもしれない。

 さて、この日の尾根は北風が強くて思ったほど成果が上がらず、見切りをつけて転戦しようとしたその時だった。道端に転がるイノシシの死骸が目に入った。下半身はなく上半身だけで、肉や内臓が食い尽くされて外側の皮だけが残っていた。乾燥して保存状態が良く、まるで剥製のよう。あまりの気味悪さにビビッて、クマの仕業に違いないとその時は思った。しかし冷静に考えればクマがこんな舐めるように綺麗に食べとは思えない。きっと死骸にトビかカラスが群がって、寄ってたかってついばんだに違いない。

 さらには、立ち去ろうとするとすぐそばに今度はカモシカと思しき白骨死体が散らばっていた。動物の墓場か、ここは。

何者かに肉と内臓を食い尽くされたイノシシ。
何者かに肉と内臓を食い尽くされたイノシシ。
今度はカモシカの白骨死体。
今度はカモシカの白骨死体。

 

 屍(しかばね)の谷をすごすごと退散し、数河高原を通り越して反対側の神岡町へやって来た。標高の低いポイントから順にチェックし、午後遅めの時間に3か所目に来ていた。この場所は翌日予定していた今回のメインポイントで、明日に備えて少し様子ておこうと思った。

 それがどうしたことか、思ったより全然季節が進んでいない。残雪がちょうど消えたばかりという風景で、ギフは2~3日後が出始めのような気がした。

 困った。明日行く場所がなくなった。メインに予定していた場所がフライングとなると、それより発生の早い場所はほとんど今日行ってしまった。

 そこで、残りの時間を使って明日のためにポイントの新規開拓をすることにする。時期的にちょうどよさそうな標高で、以前から気になっている場所がある。H君を案内するつもりがポイント探しにつき合わせて悪いが、これも良い経験だ(←なんでそんなに上から目線なの?)。

 ということで2人でサイシンを探して歩くが、良さそうな明るい自然林が延々と広がるばかりで広すぎて絞り込めない。そのうえ以前見つけたカタクリの大群落が大幅に衰退しているのを見て、なんだかブルーな気分になってきた。諦めムードが漂って、そろそろ宿へ入ろうかとH君に声をかけた。

「1株だけサイシンがありましたよ」

 H君の意外な言葉に、その場所を見に行くことにする。私がしっかり探したつもりの場所と目と鼻の先に、その1株はあった。私が探していたのは自然林の林床で、H君が見つけたのは日がカンカンに当たる土手のような場所。良さそうな場所になくて、なぜこんな場所に1株だけ?

―― そうか。日当たりの違いで芽吹きの時期がずれるとして、もしかすると林床ではまだ芽吹いていないのかもしれない、と気づいた。 

 翌日、既知のポイント2か所に立ち寄った後、前日の場所へやって来た。たった1株だがサイシンがあった場所を頼りに、仮にその付近で発生しているとして、そこから上がって来るであろう中腹のコブへと向かう。最初の良さそうなコブはH君に任せ、私は先へと歩を進めた。下で発生しているのなら、上がって来るうちにバラけて林道上にポツポツ出てくると予想した。

 がしかし、いっこうに出てこない。やっぱりダメか。なにしろたった1株だもんな。諦め気分でボーっと辺りを眺めていたその時だった。下のほうで何かが動いた気がした。半信半疑で斜面を下りていくと、地面をうろつくギフを発見! 夢中で駆け寄って御用! 御用! 御用! するとそこへ2頭目が飛んできてこれまた御用! するとまたしても3頭目が、そして4頭目が…。

 さっきまで影も形もなかったのに、下から上がってきてバラけるどころか1点集中砲火のように飛来して驚いた。どうやら上がってきた個体がその付近に溜まっていて、私のブルーネットめがけて次々に飛来したらしい。 

珍しく午後の林縁で日光浴するギフチョウ。
珍しく午後の林縁で日光浴するギフチョウ。

 この後、麓の「サイシン1株」のポイントへ移動してここでもいくつか追加できた。見落としだったかもしれないが、昨日は気づかなかったサイシンが、今日は林床にもポツポツ顔を出していた。

 状況からしてこの日はまだ発生初期だったとして、2-3日後に来ればかなりの数がいたかもしれない。そんな期待を抱かせるに十分な環境だった。H君が見つけたたった1株のサイシンが、大きな成果につながった。

[記録]2025年4月26日(土) 同行者 H君

岐阜県飛騨市古川町① ギフ 11♂1♀(内、6♂H君採集)

岐阜県飛騨市神岡町① ギフ 3♂(内、2♂H君採集)

岐阜県飛騨市神岡町② ギフ null

岐阜県飛騨市神岡町③ ギフ null(サイシン芽吹いておらず。時期尚早)

岐阜県飛騨市神岡町④ ギフ null(サイシン1株、フタバアオイ確認)

[記録]2025年4月27日(日) 同行者 H君

岐阜県飛騨市神岡町② ギフ null

岐阜県飛騨市神岡町⑤ ギフ 7♂(内、5♂H君採集)

岐阜県飛騨市神岡町④ ギフ 11♂(内、5♂H君採集)

 


■ 5月5日(月祝) 岐阜県数河高原と周辺のギフ(パート2)

 3年前に知り合ってこの間毎回のように私の採集に付き合ってくれた相棒のH君が、事情により今シーズンの採集は先週をもって早々に打ち上げとなってしまった。そこで、代わりと言っては大変失礼だが、最近名古屋昆虫同好会で知り合った同じく若手のN君を誘って出かける。 

 先週の数河高原周辺の残雪の状態から、本日の目的地の適期を5月3日と予想していた。ところがN君と都合が合わずに少し出遅れた。所詮予想だし、たった2日のことだが、ギフチョウの場合このわずかな遅れが時に天国と地獄を分ける(←ちょっと大げさじゃね?)。

大規模な伐採地。
大規模な伐採地。

 さて、現地に着くと予想どおり残雪はほぼ消えていた。ポイントを熟知しているつもりなので、軽くN君を案内していったん別れた。

 その直後、私の目の前に大規模な伐採斜面が現れた。ひどいことをするもんだ。そう思いつつも伐採斜面を見ると条件反射的に登りたくなるのはある種の病気だろうか。あえぎあえぎ登って最初のコブで首尾よく1♂ゲット。ただカケはないものの結構スレていて、3~4日飛んでいる気がする。

 でもこれに気を良くしてさらに登る。尾根に出た。溜まりそうなコブがあったがいない。さらに歩くがいない。さらに歩いて…。絶対いると思っているのでどんどん深みにはまって時間を浪費してしまった。

 元の場所へ戻って探すがいっこうに出て来ない。採集者に会ったがやはり苦戦している様子で、渋面で多くを語らなかった。このポイントで採集者に会うのはこれが初めと思うが、午後からも別の採集者が来たところをみると最近はだいぶ有名になったらしい。

 この後やっと見つけたギフをイージーなのに振り逃がしてしまった。そこへN君がやって来てその場で一緒に昼食を食べていると、ようやくポツポツ出てきた。

 その時だった。♀と思われる個体が林内をウロウロ飛んで私の目の前に来た。楽勝!と振ってネットインしたはずが、あれっ? なぜか入っていない。

「おっかしいなあ。さっきもやらかしたんだけど、しっかり振れてないのかなあ」

自嘲気味につぶやいた私に対し、

「振れてないですねえ」

と、ど真ん中直球のN君の一言。

 この一言でようやく気づいた。もしやと思って予備で持参していたメッシュのネットに替えてみると…。するとどうだ、この後たまたま見つけたポイントで、人が変わったようにスパスパ入って短時間で2桁アップしたのだった。

 数年前から緑内障が進行して視野が狭まり、それが原因で振り逃がしが増えたと思っていたが、実はそればかりではなかった。加齢に伴う運動能力の低下により、知らぬ間に振りが鈍くなっていたのだ。かつては自称 “ギフチョウ打率9割超” と豪語していたのが、最近では半分の5割以下に低下していた。午後のギフはただでさえ下からも上からも斜めからも降ってきて翻弄されるが、この日の午後は目の前で一瞬視野から消えても瞬時に振り抜いて、ちゃんとネットインしていた。振り逃がしの主たる原因は加齢に伴う身体能力の低下であることに、この時やっと気づいた。

 でもそんなの緑内障と違ってメッシュがあればへっちゃらだもんね、ガハハ、ガハハ(←加齢に伴う身体能力の低下にやっと気づいて、逆にハイになって喜ぶ変なジジイ)。

[記録]2025年5月5日(月祝) 同行者 N君

岐阜県飛騨市古川町② ギフ 12♂4♀(内、1♂4♀N君採集) 

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