後悔しない家づくり(12)ー わが家のプチ自慢: ステンドグラス

■ 玄関の壁問題

 わが家の間取りを考える際にいくつかの難題が持ち上がったが、そのひとつに「玄関の壁問題」というのがある。間取りの都合上、玄関を入ると真正面が壁面になるのだが、そのままではいかにも殺風景な気がする。それに、猫のトイレを置くため玄関の幅を広めにとりたいのだが、契約した業者はメーターモジュールを採用しているため天井が高い。幅が広めで高さが高ければ壁が大きくなる。さらに、玄関の幅が広い分、奥行は浅めにしたいので、結果大きな壁が目の前にそそり立つ感じになりはしないか。

 とりあえず壁に絵でも飾ってみようか。そんなことぐらいはすぐに思いつくが、玄関に飾る絵なら安物ではみっともない。しかし、幸か不幸か家族の誰ひとりとして絵に造詣のある者はいない。興味もないのに高価な絵を買うなんてバカバカしいことだけはしたくない。

 そこで思いついた。そうだ、壁面に内窓をしつらえて、ステンドグラスをはめたらどうだろう。玄関を入って真正面に大きなステンドグラスがあったらカッコいいし、壁の向こうはダイニングなので、ダイニングも華やかになって一石二鳥だ。なんて頭がいいんだ!

 そう思い立ってすぐにインターネットで調べてみて驚いた。ステンドグラスって、こんなに高いんだ。それにランプシェードやドアの小窓ぐらいならともかく、私が思うような大きめの作品を一般住宅用に制作販売する業者なんて、日本広しといえども数えるほどしかなかった。

 ところがである。その数えるほどしかない業者のうちの1つが、なんと自宅から車で15分ほどの場所にあることが分かった。運命的なものを感じた。

 早速、週末にそのステンドグラス工房へ行ってみると、期待に違(たが)わぬ心ときめくステンドグラスの数々がそこにはあった。しかし、私が望むような大型の作品は当然のことながら高価で、本当にいいものは目から火が出るほど高かった。

 あきらめきれない私は、ここで裏ワザに出た。姉夫婦がガラス関係の仕事をしているので、姉に相談したら何かいい話があるかもしれない。もちろん「相談」というのは建前で、下心ありありだった。

「それなら、知り合いのガラス工芸作家の先生を紹介してあげる」

えっ?! 姉の言葉に思わずのけぞった。「ガラス工芸作家の先生」って、豪邸を建てるわけではないので、そんなたいそうな話は困る。先週ステンドグラス工房へ行ってきて、ピンキリのピンの方の値段を知っていただけに余計に尻込みした。

「何を心配してるの? もちろん新築祝いでプレゼントしてあげるつもりよ」

さすが太っ腹! そうこなくっちゃ。こうして「玄関の壁問題」という難題が、予想を超える展開となって動き出したのであった。

 

■ ステンドグラス制作委員会

 それからしばらくして、岐阜県土岐市にあるガラス工芸作家の先生の工房へ、姉夫婦と私たち夫婦で挨拶がてらお願いに行くことになった。ちょうど近くで開かれていた先生の展示会へ寄ったあと工房で数々の作品を見せていただいたが、正直、少なからず違和感があった。前回行ったステンドグラス工房は素人にも分かりやすい、きらびやかで色とりどりの作品が並んでいたが、今度の先生の作品はオブジェみたいなものばかりでステンドグラスが見当たらない。前衛的な作風のうえ、ほとんどが無彩色で、素養のない者にはよく理解できない世界だった。

 戸惑う私にお構いなく、ヒヤリングが始まった。どんな作品が希望なのか、家の内装はどんな感じか、そして家族構成や私の仕事のこと、趣味や好みについて、とりとめもない雑談のような会話が長々と続いた。そして話の中で先生はこうおっしゃった。

「家の玄関を飾るのだから、その作品を見ればその家に住む人の人となりが思い浮かぶような作品にしたい」

 なるほど、さすが芸術家の先生のおっしゃることは高尚で含蓄が深い。含蓄が深すぎて素人にはついていけない。「どうでもいいから格好いいのを作ってください」と言いたいのをグッとこらえた。

 それから1か月余りのち、その後どうなったのか心配になりかけたころに、姉から電話が入る。今度の土曜の午後に姉夫婦の仕事場で先生と打ち合わせをするから来るようにとのこと。言われるがままに出かけると、作品のデッサンとステンドグラスの材料となる色々な模様のガラスが持ち込まれていて、そこからあれこれの打ち合わせが始まった。そして次の土曜の午後にも打ち合わせがあった。前回の打ち合わせに基づいて試作品がいくつか持ち込まれ、どれがいいか、色はどうか、もっとああすればいい、ここはこうしてはどうかといった議論が、先生と義兄を中心に延々と続く。そして、先生と姉夫婦、私たち夫婦の5人によるこの「ステンドグラス制作委員会」は、実に4週連続で土曜の午後を半日つぶして行われたのだった。議論は毎回大いに盛り上がり、初めのうちは訳も分からず聞いていた私も、回を重ねるごとに徐々に議論に参加できるようになっていった。

 一方この時期、家づくりも佳境を迎えていた。内装の壁紙をどうするの、玄関ドアはどうするの、そろそろ家具も見に行きたいしカーテンも決めなければいけない、というさなかの4週連続のステンドグラス制作委員会にはしびれた。姉の熱の入れようは相当なもので、私も凝り性を自認しているが、姉弟だけに血は争えないとつくづく思った。雅恵はあきれ果てて笑うしかないといった風情で、文句ひとつ言わずに付き合ってくれた。

 こうして完成した作品が下の写真。他人が見てどう思うかは関係ない。私にとっては紛れもない宝物となった。

わが家のステンドグラス(玄関側)。
わが家のステンドグラス(玄関側)。
わが家のステンドグラス(ダイニング側)。
わが家のステンドグラス(ダイニング側)。